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ガスクロマトグラフ-高分解能質量分析による尿中有機酸の定性分析と定量分析

MSTips No. 477

はじめに

尿中の有機酸測定は、先天性代謝異常症などの遺伝性代謝疾患の研究において重要な要素である。正常代謝や異常代謝など多様な原因から発生する多くの有機酸が尿には含まれており、薬物や薬物代謝、またはゼノバイオティクスや栄養補助食品からも発生することが知られている。ガスクロマトグラフ-質量分析 (GC-MS) は尿中有機物質の測定方法として一般的に利用されており、多くの場合、GC-四重極MS (GC-QMS) が使用されている。ただし、尿は非常に多くの化合物が混ざった複雑なサンプルであるため、特に新しい測定方法を確立する場合に必要となる、有機酸の正確な識別に対してGC-QMSでは不十分となり得る。そのためGC-QMSの代わりに、GC-高分解能MS (GC-HRMS) がこの目的に適したシステムとなる。 

GC-HRMSであるJMS-T2000GCは、ソフトイオン化の一つである電界イオン化 (FI) 法および電子イオン化 (EI) 法を使用できるだけでなく、真空を破ることなくEIとFIの切り替えが可能な共用イオン源を有している。この2つのイオン化法による測定結果をmsFineAnalysis AIで解析すると、化学組成以外に化学構造を予測できるため、有機酸を含む化合物の特定に役立つ。本MSTipsでは、JMS-T2000GCとmsFineAnalysis AIを使用して尿中の有機化合物の化学組成と化学構造を決定し、対象とした有機酸の定量分析を行った例を示す。

実験

サンプル溶液中の有機酸は酸性尿から酢酸エチル液相法で抽出し、揮発性を高めるためにトリメチルシリル (TMS) 誘導体化を行った。サンプル溶液はオートサンプラーで1 μLをJMS-T2000GCに注入・測定した。定性分析にはmsFineAnalysis AIを、定量分析にはEscrime™ソフトウェアをそれぞれ使用した。Table 1にGC-HRMS測定条件を示す。

JMS-T2000GC "AccuTOF™ GC Alpha"

Table 1. Measurement conditions

GC-HRMS JMS-T2000GC (JEOL Ltd.)
GC inlet mode Splitless
GC inlet temperature 280°C
GC Column DB-5MS, 30 m x 0.25 mm, 0.25 μm
GC Oven 60°C (1 min) →10°C/min →300°C (3 min)
Carrier gas He, 1.0 mL/min
MS Ionization EI+: 70 eV, 300 μA
FI+: -10 kV with JEOL 5 μm emitter (10 mA, 6 msec)
MS Monitor ion range m/z 45-800
Analysis software Qualitative: msFineAnalysis AI (JEOL Ltd.)
Quantitative: Escrime™ (JEOL Ltd.)
Figure 1

Figure 1. TICCs of a urine organic acid from sample (top: EI, bottom: FI)

定性分析結果

尿サンプルの全イオン電流クロマトグラム (TICC) をFigure 1に示す。29成分のターゲット有機酸を含む108成分が検出された。msFineAnlaysis AIの定性解析結果をTable 2に示す。ターゲット有機酸はTable 2 中に赤色帯で示す。ピーク[33]は、 Succinylacetone oximationのTMS誘導体化合物である5-Methyl-3-isoxazolepropanoic acid trimethylsilyl esterに割り当てられた。ピーク[023]や[024]など、一部の成分はクロマトグラム分離が不十分なために共溶出したが、msFineAnalysis AIのデコンボリューション機能によってそれぞれの成分を個別に解析できた。msFineAnalysis AIの統合分析とAI構造解析の例としてピーク[098]の結果を、それぞれFigure 2とFigure 3に示す。Figure 2に示すEIマススペクトルでは分子イオンは検出されず、FIマススペクトルでは[M+H]+イオンが検出された。このマススペクトルから、ソフトイオン化を併用することの重要性が示唆される。検出された[M+H]+イオンの精密質量から、化学式はC16H34NO5Si2と推定された。この化合物は、分子イオンから推定された化学式とNISTデータベース検索結果からの候補化合物が一致しなかった。しかしながら、msFineAnalysis AIは、NISTデータベースに登録されていない化合物のEIマススペクトルを多く収納したAIライブラリーを有しており、分子イオンから推定された化学式と一致し、かつEIフラグメントイオンパターンの一致した化合物がAIライブラリーによって候補として表示された (Figure 3参照)。

 

Figure 2

Figure 2. Integrated Analysis results of peak 098

 

Figure 3

Figure 3. AI Structural Analysis results of peak 098

Table 2. msFineAnalysis AI results

Table 2

定量分析結果

3つのターゲット有機酸 (2TMS-lactic Acid 、2TMS-glycolic acid、2TMS-pyruvic acid oxime) のEI TICCと抽出イオンクロマトグラム (EIC) をFigure 4に示す。尿は非常に複雑なサンプルであるため、TICCには多くのピークが確認された。しかしながら、精密質量によって作成したEICでは、他の化合物の影響を最小限に抑えてターゲット化合物を検出することができた。クロマトグラムピークが重なった有機酸を含むすべてのターゲット有機酸は、定量分析に適したクロマトグラムピーク形状を示した (図中には一部のみ表示)。定量分析の実例としてTable 3に示した、いくつかの尿サンプルのターゲット有機酸の定量値は濃度既知リファレンスとの面積比から算出した。

Table 3. Quantitative values of target organic acids (Unit: μM)

Table 3
 

Figure 4

Figure 4. TICC and EICs of extracted urine sample.
(Right: 2TMS-lactic acid, Center: 2TMS-glycolic acid, Left: 2TMS-pyruvic acid oxime)

まとめ

JMS-T2000GCとmsFineAnalysis AIは、尿中の有機酸TMS誘導化物などの化学式や化学構造を同定するための強力なツールであり、定量分析に対しても精密質量で作成したEICが強力なツールとなることを本MSTipsに示した。JMS-T2000GCとmsFineAnalysis AIは、メタボロミクスや臨床分析への幅広い応用が期待される。

 

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