窒素キャリアガスを使用したカビ臭原因物質とトリハロメタンの同一カラム分析
MSTips No. 482
1.はじめに

藍藻類と呼ばれる植物プランクトンによって生成されるカビ臭原因物質と、浄水場での浄水過程で注入される塩素と水中の各種有機物質が反応して生成するトリハロメタン(THM)は、水質分析における、健康リスクや品質劣化の指標として、常に注視されている。
本報では、窒素キャリアガスを使用したSPME-GC-MS法を用い、同一カラムでカビ臭原因物質とトリハロメタンの両方を測定する方法を検討した。検討の結果、水質基準値の1/10の濃度において、十分な感度と再現性で検出する事が可能だったので報告する。
2.実験
2.1.測定方法
測定はHTA社製のGC用オートサンプラーHT2850Tと、ガスクロマトグラフ質量分析計JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを使用した。HT2850Tは、分析用途に応じてHSモード、液体注入モード、固相マイクロ抽出(SPME)モードに対応可能な、オールインワンGC用オートサンプラで、今回はSPMEモードを使用して測定を実施した。サンプルの測定条件をTable1に示す。
Table 1. Measurement condition
…Bold and underlined numbers are quantitation ions.
2.2.カビ臭原因物質のサンプル調整
塩化ナトリウム4.0g とミネラルウォーター10mLを量り入れたヘッドスペース用バイアルに、2-MIBとGeosminを1, 2, 4, 10, 20, 40, 100, 200pptとなるよう添加し調製した。内部標準物質は2,4,6-Trichloroanisole-d3(→TCA-d3)を20pptの濃度で添加した。
2.3.トリハロメタンのサンプル調整
塩化ナトリウム4.0g とミネラルウォーター10mLを量り入れたヘッドスペース用バイアルに、Chloroform, Bromodichloromethane, Dibromochloromethane, Bromoformを0.1, 0.2, 0.4, 1, 2, 4, 10, 20ppbとなるよう添加し調製した。内部標準物質はFluorobenzeneとp- Bromofluorobenzeneを2ppbの濃度で添加した。
3.結果
カビ臭物質およびトリハロメタンの検量線をFigure 1および2に示した。検量線は低濃度と高濃度で分割して作成している。各検量線の相関係数は0.99以上で良好な直線性が得られている。
Figure 1. Calibration curve of each component at low conc. range.
Figure 2. Calibration curve of each component at high conc. range.
検量線の下限濃度のSIMクロマトグラムをFigure 3に示した。水質基準値の1/10の濃度である検量線の下限濃度(=1ppt)においても、2-MIBとGeosminが周辺のピークと十分に分離されて問題無く検出可能できていることがわかる。
Figure 3. SIM chromatograms of each component at lower limit of conc.
検量線の下限濃度において繰り返し測定した際の定量値の変動係数をTable 2に示した。変動係数は、カビ臭物質・トリハロメタンの全てについて10%以下であり、良好な再現性が得られている。
Table 2. C.V. of each component
4.結論
窒素をキャリアガスに使用して固相マイクロ抽出(SPME)-GC-MS法により、同一カラムで、カビ臭とトリハロメタンについて測定を行う方法について検討した結果、カビ臭物質とトリハロメタンについて、直線性の良好な検量線が得られると同時に、検量線の下限濃度についても良好な再現性を得ることが可能であった。