窒素キャリアガスを使用したVOC・ハロ酢酸類・フェノール類のデュアルカラム分析
MSTips No. 483
1.はじめに
弊社はこれまでに、作業効率向上を目的として、2種類のGC用カラムをMSに接続するデュアルカラム構成で水質基準項目の測定を可能とするアプリケーションを報告している。デュアルカラム接続は、カラム切り替えにおけるダウンタイムを無くせるメリットがある一方で、キャリアガス流量は増大するためMS側の感度低下が懸念されるというデメリットも存在する。通常、キャリアガスとして使用するヘリウムにおいては、キャリアガス流量の増加によるMS側の感度低下は軽微であるが、ヘリウム以外の代替キャリアガスの使用した場合には、MS側の感度が大きく低下することが懸念される。
今回、代替キャリアガスとして窒素を使用した状態で、VOC測定用のカラムとハロ酢酸・フェノール類測定用のカラムを同時に接続し、 VOC・ハロ酢酸類・フェノール類の各成分について検出感度、検量線の直線性、再現性などの性能指標を基に、水質分析におけるアプリケーション適応性を確認した。
JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
w/t MS-62071STRAP
2.実験
2.1.サンプル調製
VOC : 3gの塩化ナトリウムと精製水10mLを量り入れたヘッドスペース用バイアルに、1,4-ジオキサンを除くVOCを0.1, 0.2, 0.4, 1, 2, 4, 10, 20µg/L、1,4-ジオキサンを5, 10, 20, 50, 100, 200µg/Lとなるよう添加し、調整した。内部標準物質は、各測定試料にフルオロベンゼンとp-ブロモフルオロベンゼンを2.5µg/L、1,4-ジオキサン-d8を200µg/Lの濃度になるよう添加した。 ハロ酢酸類 : 誘導体化処理後の化合物であるクロロ酢酸メチル、ジクロロ酢酸メチル、トリクロロ酢酸メチルについて、処理前の検水中のハロ酢酸の濃度として2, 5, 10, 20, 40µg/Lとなるよう、MTBEで段階的に希釈して調整した。内部標準物質は、各測定試料に1,2,3-トリクロロプロパンを100µg/Lの濃度となるように添加した。フェノール類 : フェノール、2-クロロフェノール、4-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノールを、処理前の検水中の濃度として0.1, 0.2, 0.5, 1, 2µg/Lとなるよう、酢酸エチルで段階的に希釈した後、分取した溶液1mLにN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドを50μL添加し、1時間静置したものを検液とした。内部標準物質は、アセナフテン-d10を200µg/Lの濃度となるように添加した。
2.2.測定条件
サンプルの測定は、ヘッドスペースオートサンプラーとしてMS-62071STRAPを接続したガスクロマトグラフ質量分析計JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを使用した。装置の測定条件をTable1に示した。
Table 1. Measurement condition
2.3.デュアルカラムにおける2本のカラムの接続方法について
デュアルカラム構成時は、各カラムの入口側を前後の注入口に接続し、出口側は2本ともMS側に接続した。MS側の接続は、2本のカラムを固定可能な2つ穴フェラルを使用する。
3.測定結果
VOC、ハロ酢酸類、フェノール類の各化合物について、検量線をFigure 1、検量線の下限濃度のクロマトグラムをFigure 2に示した。
Figure 1. Calibration curve of each compound.
Figure 2. SIM chromatograms of the most lower concentration plot of the calibration curve for each compound.
検量線の相関係数と検量線の下限濃度をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数(以後、C.V.と省略)についてはTable 2に示した。
Table 2. Correlation Coefficient and Coefficient of Variation (C.V.) of each compound.
Table 2に示した相関係数及は全ての成分で0.99以上であり、今回調整した濃度範囲において良好な直線性が得られている。また、下限濃度における変動係数についても全ての成分で5%以下であり、水質検査において必要とされる感度指標となる基準値の1/10の濃度を十分に測定可能であることが示された。
4.結論
代替キャリアガスとして窒素を使用して、VOC測定用カラムとハロ酢酸・フェノール類測定用カラムをデュアルカラム接続した状態で、 VOC・ハロ酢酸類・フェノール類について検出感度、検量線の直線性、再現性を検証した結果は良好であり、窒素キャリアガスを使用したデュアルカラム接続による測定が十分に可能であることが確認された。