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窒素キャリアガスを用いたLow-pressure GC-MS (LPGC-MS)法による農薬分析

MSTips No. 490

1.はじめに

1.1. Low-pressure GC-MS (LPGC-MS)について

Vam Deemterの式に依ると、クロマトグラフィーの分離能は移動相中の物質の拡散係数に依存し、さらに気体中の物質の拡散係数は圧力に反比例する事が知られている。Low-pressure GC-MS (LPGC-MS)法は、その原理を応用し、MSの真空システムによりカラム内圧を真空に保つことで、分析スピードを向上させる手法である。一般的に、LPGC-MSは、GC注入口側にリストリクタを接続した、0.53mm~0.32mm内径の短い分析カラムを使用する(→ Figure 1)。通常、カラムを短くすると分離能も低下するが、LPGC-MSでは内圧低下による分離能向上により、カラムを短くした影響は最小限に抑えることが可能となる。

 

Figure 1. LPGC-MS configuration

1.2.窒素キャリアガスを使用したLPGC-MSについて

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta

本報では、窒素キャリアガスを接続したJMS-Q1600GCを使用して、LPGC-MS法で農薬を分析する方法について検討した。前述の通り、LPGC-MSは、カラム内圧の低下に伴う拡散係数の向上により、カラムの分離能を高める手法である。一般的に、窒素キャリアガスを使用したGC-MS分析は、キャリアガスの流量を落とすことで感度が向上するため、カラム内圧の低下により分離能が向上するLPGC-MSとは親和性が高いと考えられる。加えて、LPGC-MSでは0.53mm~0.32mmといった内径の太いカラムを使用するため、カラムの負荷量が大きく、注入量を増やす点でも優位である。検討においては、本手法を水道農薬の分析に適用させることを目的として、検出感度、検量線の直線性、再現性などの性能指標を基に、水道農薬分析における本手法の有効性を評価した。

2.実験

測定はガスクロマトグラフ質量分析計JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを使用、LPGC-MS用のカラムには、Restek Corporation. のLPGC Rtx-5msカラムキット, 0.32 mm ID(カタログ番号:11802)を使用した。サンプルの測定条件をTable1に示す。尚、MSの測定方法はSIMとし、SIMのモニターイオンは、水質管理目標設定項目の農薬類(水質管理目標設定項目15)の対象農薬リストのうち、別添方法5・別添方法5の2・別添方法25の対象となる134成分を設定した。

 

Table 1. Measurement condition

  • … 10 m x 0.32 mm ID x 1.00 µm Rtx-5ms column and 5 m x 0.15 mm ID restrictor

 

保持時間確認用のサンプルは、富士フイルム和光純薬株式会社の66種農薬混合標準液 水質-1-2 (各20 µg/mLアセトン溶液), 15種農薬混合標準液 水質-2 (各20 µg/mLアセトン溶液), 48種農薬混合標準液 水質-5 (各20 µg/mLアセトン溶液), 3種農薬混合標準液 水質-10(各20 µg/mL アセトン溶液), Endosulfan α and β, Prothiofos, Prothiofos oxon, CNP-aminoを混合して調製した。検量線作成および再現性確認用のサンプルは、富士フイルム和光純薬株式会社の13種農薬混合標準液(各10µg/mL, アセトン溶液)を1~100µg/Lとなるよう希釈し、内部標準物質としてAnthracene-10, 9-Bromoanthracene, Chrysene-d12を100µg/Lの濃度で添加した。

3.結果

3.1.水道農薬134成分を測定した際のTICC及びEICの比較

保持時間確認用のサンプルを通常条件のGC-MSで測定した際のTICCとエトフェンプロックスのEICをFigure 2に示した。LPGC-MS条件で測定した際のTICCとエトフェンプロックスのEICをFigure 3に示した。

 

Figure 2. TICC of 134 pesticides measured using the conventional GC-MS with He method and EIC of Etofenprox

 

Figure 3. TICC of 134 pesticides measured using the LPGC-MS with N method and EIC of Etofenprox

 

分析時間を比較すると、通常条件のGC-MSでは、約40分超かかる測定が、LPGC-MS条件では、約20分で終了する。ピーク幅については、エトフェンプロックスのEICで比較した結果、通常条件のGC-MSとLPGC-MS条件とで同程度であった。溶出するピークについてTICCの分離は困難となるが、EICでは各農薬の分離が可能であった。溶出するピークが最も多い10分前後について各農薬のEICをFigure 4に示した。

 

Figure 4. EIC of pesticides that dissolve around 10 minutes

3.2. 農薬13成分の検量線及び再現性の確認

検量線作成および再現性確認用のサンプルをLPGC-MS法で測定し、作成した検量線をFigure 5に示した。検量線の相関係数(r)は全成分で0.99以上あり、良好な直線性が得られている。

 

Figure 5. Calibration curves for each of the 13 pesticide components

 

検量線作成および再現性確認用のサンプルのうち、濃度10µg/Lを試行回数n=5で連続測定した際の定量値の変動係数(C.V.)をTable 2に示した。また、繰り返し1回目の各農薬のSIMクロマトグラムをFigure 6に示した。

 

Table 2. coefficient of variation for each of the 13 pesticide components

 

Figure 6. EIC for each of the 13 pesticide components

 

下限濃度の変動係数は、全成分について10%以下であり、良好な再現性が得られており、各農薬のクロマトグラムについても、十分な強度で検出出来ていることが確認できる。

3.3. 通常条件のGC-MSとLPGC-MSの感度比較

濃度0.5µg/Lのクロルニトロフェンについて、通常GC-MSとLPGC-MSのEICを比較した結果をFigure 7に示した。クロルニトロフェンは、水道農薬の中で目標値が最も低く、通知法に準拠した500倍濃縮の前処理を経ても最終的な検液の濃度は0.5µg/Lと極めて低濃度である。Figure 7の結果より、窒素キャリアガスを使用したLPGC-MS法において、0.5µg/Lのクロルニトロフェンのピーク検出が可能であり、さらにヘリウムを使用した通常条件のGC-MS法の結果と概ね同程度のS/Nが得られている。

 

Figure 7.   Comparison of EIC for 0.5 µg/L Chloronitrofen measured using the LPGC-MS with N₂(Left) and conventional GC-MS with He(Right)

4.結論

水道農薬への適用を目的として、窒素キャリアガスを使用したLPGC-MS法による農薬分析について検討した結果、測定時間としては、通常条件のGC-MS法と比べて約半分に短縮する事が可能であった。13成分の農薬についてより詳細な定量性について検討した結果、検量線の直線性については1~100µg/Lの濃度範囲で相関係数が0.99以上と良好な直線性が得られており、再現性については濃度10µg/Lにおいて10%以下のC.V.で測定可能であった。また、水道農薬の中で目標値が最も低いクロルニトロフェンにおいて、通知法の濃縮倍率前提で目標値に相当する濃度となる0.5µg/Lのピーク検出が可能であると同時に、ヘリウムを使用した通常条件のGC-MSと概ね同等の感度を得ることが可能であった。以上の結果より、窒素キャリアガスを使用したLPGC-MS法を用いる事で、水道農薬の分析は十分に可能であると判断できる。

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