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GCxGC-TOFMSによるカレールー香気成分のノンターゲット分析

MSTips No. 508

はじめに

食品の香気成分や腐敗臭などのオフフレーバー成分は、食品の風味や品質に関わる重要な要素の一つである。食品中の香気およびオフフレーバー成分の分析には、ガスクロマトグラフ質量分析法 (GC-MS) が多用されている。ただし、これらの成分は多くの化合物から構成されており、 従来の一次元GC-MS測定では成分の共溶出により解析が困難な場合がある。このようなケースでは、包括的二次元ガスクロマトグラフィー質量分析 (GCxGC-MS) 法が複雑なピーク分離に有効な手法とされる。
GC-MSやGCxGC-MSを用いて食品香気成分の定性分析を行う際は、アメリカ国立標準技術研究所 (NIST) が提供している電子イオン化 (EI) マススペクトルライブラリーを用いたNISTデータベース (DB) 検索により化合物同定を行うことが一般的である。しかし、DBに未登録の化合物が検出される場合もあり、それらは未知物質として扱われる。我々はGC-MSやGCxGC-MSにおける未知物質構造解析ソリューションとして、ガスクロマトグラフ高質量分解能飛行時間質量分析計 (TOFMS) のデータと、深層学習によるマススペクトル予測を組み合わせた自動構造解析手法1) (以後AI構造解析) を搭載したソフトウェアmsFineAnalysis AIを開発し、2022年にリリースした。さらに、2025年にAI構造解析の更なる精度向上、GCxGCデータ解析機能、AI分子式レコメンド機能を搭載したVer. 3をリリースした。本ソフトウェアには、約2億化合物の構造式と予測EIマススペクトルのDB (以下、AIライブラリー) が収録されており、統合解析2) により決定した分子式情報を活用することで、迅速に未知物質の構造式を推定することが可能である。
そこで本MSTipsでは、スパイスや肉・野菜などの様々な食材・エキスから構成され、複雑な香気成分を持つと推定される市販のカレールーを測定対象とした。ヘッドスペース-固相マイクロ抽出 (HS-SPME) で抽出した揮発性成分を GCxGC-TOFMS により測定し、 msFineAnalysis AIにより解析した結果について報告する。

実験

試料には市販のカレールーを使用し、試料0.5 gおよび蒸留水3 mLを容量20 mLのヘッドスペースバイアルに封入した (Figure 1)。試料の前処理装置としては、GC用オートサンプラーHT2850T (HTA社製) のSPMEモードを使用し、バイアル内のヘッドスペースに含まれる揮発性成分を測定対象とした。測定は、ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計JMS-T2000GC (日本電子製) とサーマルモジュレーターINSIGHT-Thermal (SepSolve社製) を組み合わせたGCxGC-TOFMSシステムで実施した (Figure 2)。MSのイオン源にはEI/FI共用イオン源を使用し、イオン化法としてはEI法および、ソフトイオン化法の電界イオン化 (FI) 法を用いた。得られたGCxGC/EI及びFIデータはmsFineAnalysis AI (日本電子製) にて、統合解析及びAI構造解析を実施した。その他の詳細条件は、Table1に示す。

Figure 1 Sample

Figure 2 JMS-T2000GC with HT2850T autosampler and INSIGHT-Thermal modulator

Table 1 Measurement condition

結果と考察

GCxGC TICC

Figure 3にEI法で取得したGCxGC トータルイオンカレントクロマトグラム (TICC) を示す。ブランク測定からも抽出された成分を除き、サンプル由来と推定される325成分を抽出できた。強度上位10成分の統合解析によるアノテーション結果をFigure 3に記載した。Benzaldehyde, 4-(1-methylethyl)-やaR-Turmeroneなど、スパイスに起因すると考えられる成分が多く検出された。今回のカラムセットでは、1stカラムに微極性、2ndカラムに中極性カラムを使用しており、横軸方向は沸点順、縦軸方向は極性順でそれぞれの成分が溶出する。今回の測定結果では、1st RT 12分から25分にかけて、モノテルペン類が主に検出され、1st RT 27分から42分にかけて、セスキテルペン類が主に検出された。このように、GCxGC測定によって得られた二次元プロットにより、各化合物群をグループ別に確認することができた。
また、Figure 4にGCxGC TICCの拡大結果を示す。これより、1st RT 26.14 分に2成分 (ID: 0126, 0127) 存在することがわかる。これらの成分は1st RTが同じであるため、通常のGC-MS測定では共溶出する可能性があるが、GCxGC測定で得られる二次元プロットにより分離が可能であった。

 

Figure 3 GCxGC total ion current chromatogram (TICC)

 

Figure 4 Expanded GCxGC TICC and mass spectra of ID: 0126, 0127

ID: 0126, 0127の統合解析結果

Table 2およびTable3に、それぞれID:0126およびID: 0127の統合解析結果を示す。統合解析の結果、ID:0126は1-Cyclohexene-1-carboxaldehyde, 4-(1-methylethyl)-、 ID:0127はCinnamaldehyde, (E)-と推定された。統合解析とは、EI法とソフトイオン化法で取得したデータを統合して解析することで分子式を一意に決定できる手法であり、msFineAnalysis AIを使用することで自動的にその解析結果が得られる。統合解析における解析内容の内訳をFigure 5に示す。解析内容は大別するとNIST DB検索、分子イオンの精密質量解析、EIフラグメントイオン精密質量解析に分けられる。解析の流れとしては、まずEIデータを用いたNIST DB検索が行われる。 NIST DB検索でマッチファクターが700以上の候補がヒットし、その候補化合物の分子式と、分子イオンの組成推定結果が一致した場合はその結果が採用される。また、リテンションインデックス(RI)が登録されている場合は、RI値による化合物候補の絞り込みも行われる。さらに、分子イオンの同位体パターン解析により、同位体パターンが理論値と実測値で一致しているかの確認と、EIフラグメントイオン精密質量解析により、候補化合物のフラグメントイオンが理論的に説明可能かどうかを評価する。これらの解析結果を総合的に判断することで、分子式を一意に決定することが可能となる。なお、同位体パターン解析の結果は、表中ではIsotope Matching、EIフラグメントイオン精密質量解析の結果はCoverageと示されている。さらに、msFineAnalysis AI Ver. 3で新たに搭載されたAI分子式レコメンド機能により、複数の分子式候補が存在する場合でも、機械学習モデルがそれらをランク付けし、最も妥当な候補を優先的に提示する。なお、 AI分子式レコメンドの結果は、表中でがIM Score [%]と表示されている(組成式候補全体で100%となるよう規格化されている)。このAI分子式レコメンドにより得られたランク付け結果を統合解析と組み合わせることで、最終的に一つの分子式に絞り込むことが可能となる。
以上のように、統合解析結果および、AI分子式レコメンド機能により、NIST DBに登録されている化合物であっても確度の高い定性解析結果が得られることが示された。

 

Table 2 Integrated analysis result ID: 0126

 

Table 3 Integrated analysis result ID: 0127

 

Figure 5 Integrated analysis flow

結論

本MSTipsでは、カレールーの香気成分をGCxGC-TOFMSで測定し、msFineAnalysis AIを用いて解析した結果を報告した。数多くの成分が検出され、通常のGC-MS測定であると共溶出する可能性がある成分も検出されたが、GCxGC測定によって得られた二次元プロットにより分離することができた。さらに、統合解析およびmsFineAnalysis AI Ver. 3で新たに搭載されたAI分子式レコメンド機能により、NIST DBに登録されている化合物であっても確度の高い定性解析結果が得られることが確認できた。以上の結果より、GCxGC-TOFMSとmsFineAnalysis AIは、食品香気成分の網羅的かつ高精度な分析に有用であることが示された。

参考文献

1) A. kubo et al, Mass Spectrom., 2023, 12, A0120.
2) M. Ubukata et al, Rapid Commun Mass Spectrom., 2020, 34, e8820.

分野別ソリューション

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