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ガスクロマトグラフ-高分解能質量分析および走査電子顕微鏡による室内粒子物質中有機成分と無機成分の定性分析

MSTips No. 514

はじめに

室内環境の粒子物質(PM)は屋外環境よりも高い濃度となる可能性がある一方で、住民の健康への影響は十分に知られていない1)。室内PMは外部から流入するものと室内で発生するものが混在するため、その組成は無機成分と有機成分の両方から形成される。また、体内へ吸入されうる室内PMは直径10µmもしくはそれ以下とされていることから、無機成分の分析には走査電子顕微鏡(SEM)による観察とエネルギー分散型X線分光(EDS)、有機成分の分析にはガスクロマトグラフ-高分解能質量分析(GC-HRMS)が有用である。
GC-HRMSシステムであるJMS-T2000GCは、ソフトイオン化の一つである電界イオン化(FI)法および電子イオン化(EI)法を使用できるだけでなく、真空を破ることなくEIとFIの切り替えが可能な共用イオン源を有している。この2つのイオン化法による測定結果をmsFineAnalysis AIで解析すると、化学組成以外に化学構造を予測できるため、有機成分の特定に役立つ。
本MSTipsでは、JMS-T2000GCとmsFineAnalysis AIを使用して室内PM中の有機成分の化学組成と化学構造を推定した。さらにJSM-IT800isを用いたSEM-EDS測定により無機粒子の形態と元素組成を明らかにすることで室内PMの構成成分を網羅的に分析した。

実験

室内PMは孔径5µmのガラス繊維メンブレンを真空ポンプ(12V出力, 22L/min)を用いて3日間吸引して得た。採取した一部粒子をSEM観測用に分けた後、残りのガラス繊維メンブレンを12mLガラス瓶に入れた。そこにジクロロメタン:メタノール(V:V=3:1)混合溶液を5mL加え、超音波抽出を30分間行った。その後、遠心分離を行い、上澄み液をJMS-T2000GCで測定した。定性分析にはmsFineAnalysis AIを使用した。Table 1にGC-HRMS測定条件を示す。
また、 SEM-EDS測定は、室内PMをカーボンテープにより固定し、JSM-IT800isを用いて観測した。

JMS-T2000GC “AccuTOFTM GC Alpha”

JSM-IT800is

Table 1. Measurement conditions

 

Figure 1. TICCs of indoor particulate matter
 (top: EI, bottom: FI. Blue: indoor particulate matter and glass membrane, Red: glass membrane)

定性分析結果

得られたEIおよびFIのトータルイオンカレントクロマトグラム(TICCs)をFigure 1に示す。室内PM抽出液(サンプルA)のTICCを青色で、メンブレンのみのブランク抽出液(サンプルB)のTICCを赤色でFigure 1中にそれぞれ示した。Figure 1 中には後述するvolcano plotの結果からサンプル間の有意差となった成分の推定化合物構造を示し、また室内抽出液のみから得られたリテンションタイム(RT) 24.63分のクロマトグラムピークを拡大してで示した。RT 24.63分のクロマトグラムピークのmsFineAnalysis AI解析結果をFigure 2に示す。 EIマススペクトルからは分子イオンが検出されず、フラグメントイオンが検出された。FIマススペクトルでは分子イオンが検出されており、ソフトイオン化を併用することの重要性が示唆される。検出された分子イオンの精密質量から化学組成はC24H38O4と推定された。また、主要EIフラグメントイオンの推定化学組成は分子イオンの化学組成と矛盾しない結果を示した。NISTライブラリー検索結果はbis(2-ethylhexyl) phthalateが高い類似度で推定された。Bis(2-ethylhexyl) phthalateの化学組成は精密質量から計算された化学組成と一致するため、msFineAnalysis AIはbis(2-ethylhexyl) phthalateを化合物候補として示した。 次に両サンプルに共通したRT 26.05分のクロマトグラムピークのmsFineAnalysis AI解析結果をFigure 3とFigure 4に示す。 EIマススペクトルからは分子イオンが検出されず、フラグメントイオンが検出された。FIマススペクトルで確認された分子イオンの精密質量から化学組成はC21H43O4と推定された。また、主要EIフラグメントイオンの推定化学組成は分子イオンの化学組成と矛盾しない結果を示した。NISTライブラリー検索では高い類似度を示し、かつ推定された化学組成をもつ化合物は見つからなかった。しかしながら、msFineAnalysis AIはNISTライブラリーに登録されていない化合物のEIマススペクトルを多く収納したAIライブラリーを有しており、 AIライブラリー検索は分子イオンから推定された化学式と一致し、かつEIフラグメントイオンパターンの一致した化合物として1,3-dihydroxypropan-2-yl 16-methylheptadecanoateを候補として示した(Figure 4参照)。

 

Figure 2. Integrated Analysis results of the component at a retention time of 24.63 minutes.

 

Figure 3. Integrated Analysis results of the component at a retention time of 26.05 minutes.

 

Figure 4. AI Structural Analysis results of the component at retention time of 26.05 minutes.

 

測定結果から得られたvolcano plotをFigure 5に示す。室内PM抽出液であるサンプルAからは、高分子の可塑剤として使用されるbis(2-ethylhexyl) phthalate、2-methyl-tridecane、高分子重合の光開始剤として使用される1-benzoylcyclohexanolが検出された。一方でブランク抽出液(サンプルB)からはoctadecanoic acidとpolydimethylsiloxaneが確認された。Volcano plotの結果から、室内PM中の有機成分は高分子に由来することが明らかになった。

 

Figure 5. Volcano plot between particulate matter and blank.

SEM結果

Figure 6に示した室内粒子物質の二次電子(SE)像から室内PMは異なる形状の微粒子の凝集体であることがわかる。粒子径5 µm 前後の室内粒子物質が数多く観測され、小さいものは1 µmの粒子径も観測された。また、反射電子(BSE)像では凝集体内に部分的なコントラストが確認されるため、凝集体は異なる元素からなる室内粒子物質で構成されていることがわかる。Figure 7に示すEDS元素分析の結果では、O, Na, Mg, Al, Si, S, K, Caが検出されており、土や砂と同様の元素が検出された。

 

Figure 6. SE image and BSE image
(Left: SE image, Right: BSE image)

SE & BSE imaging conditions: Accelerating voltage: 3kV, magnification: 2000x

 

Figure 7. EDS elemental mapping images and EDS spectrum
EDS analysis conditions: Accelerating voltage:10kV, magnification: 3000x

まとめ

本MSTipsでは、JMS-T2000GCとmsFineAnalysis AIを使用して室内PM中の有機成分の化学組成と化学構造を推定し、さらにJSM-IT800isを用いたSEM-EDS測定により無機粒子の形態と元素組成を明らかにした。JMS-T2000GCとJSM-IT800isの両方を使用した室内PMの成分分析は、室内PMの健康被害の予測と対策への一助となることが期待される。

参考文献

1) https://www.epa.gov/indoor-air-quality-iaq/indoor-particulate-matter#indoor_pm

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