GC-QMSによる熱分解オイルの迅速定性と定量法の検討
MSTips No.515
1. はじめに
熱分解オイルは、ケミカルリサイクルの工程で得られ、その品質評価にはGC-QMS法が用いられる。本法では、原料由来の多種多様なポリマーの熱分解生成物が検出されるため、配合されているポリマー種の特定および定量的評価には時間を要する。樹脂中のポリマー種の特定には、熱分解 (PY) -GC-QMS法で得られる特徴的な熱分解生成物が識別用化合物として用いられるが、熱分解オイルのポリマー種の特定においても同様の識別用化合物が適用可能かは明らかとなっていない。
今回は、JMS Q1600GC UltraQuad ™ SQ Zeta を用いて、GC-QMSによる熱分解オイルの分析における識別用化合物の選定、およびそれらを用いた熱分解 オイル中のポリマー種の迅速な特定法を検討した。さらに、識別用化合物のピーク面積比によるポリマー種の配合比の評価法ついても検討した。

ガスクロマトグラフ質量分析計
JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
2. 実験
試料には、Table 1に示す配合比のポリマー種から生成された熱分解オイルおよび、ポリプロピレン (PP) 、ポリエチレン (PE) 、ポリ塩化ビニル (PVC) 樹脂の標準試料を用いた。熱分解オイルの測定には、GC-QMSを用い、樹脂の測定にはPY-GC-QMSを用いた。識別用化合物の迅速な検出に統合解ソフトウェア (msFineAnalysis iQ, JEOL製)のターゲット分析機能を用いた。本機能では、探索したい化合物の分子式やフラグメント組成式などの情報もとに描画したEICからピークを検出し、そのピークが目的の化合物であるかを統合的に判定することで化合物の含有を確認できる。GC-QMSおよびPY-GC-QMS測定条件をTable 2に示す。
Table 1 試料 (熱分解オイル)
Table 2 測定条件
3. 結果
3.1 熱分解オイルにおけるポリマー種識別用化合物の選定
Figure 1に、熱分解オイルのGC-QMS測定および樹脂のPY-GC-QMS測定のTICCを示す。PP樹脂の識別用化合物として一般的1) である2,4-Dimethyl -1-heptene (C9H18) は熱分解オイルから検出されておらず、低沸点成分であることから作製オイルの回収時および保管中に揮発したと考えられる。
そのため、PPの熱分解オイルの識別化合物には2,4,6,8-tetra methyl-1-undecene (C15H30) を選定した。尚、PEおよびPVCの熱分解オイルからは、各樹脂の識別用化合物1.20-heneicosadiene (C21H40) およびNaphthalene (C10H8) が検出されたため、これらを識別用化合物とした。
参考文献 1) A. Watanabe, BUNSEKI KAGAKU, 73, 6, 251-263 (2024).

Figure 1 熱分解オイル : 試料A, E, F のTICC (上段) / 樹脂 : PP,PE,PVC樹脂のTICC (下段 )
3.2 識別用化合物を用いた熱分解オイル中のポリマー種の迅速な特定
Table 3 に、3-1項で設定した識別用化合物のEIC (ベースイオンのm/z) から得られたピーク面積値とC.V.値を示す。結果より、複数のポリマー種が含まれる熱分解オイルから、識別用化合物を用いてポリマー種を迅速に特定可能であることが示された。
Table 3 各試料から検出された識別用化合物のピーク面積値とC.V.値(n=5)

3.3 識別用化合物のピーク面積比によるポリマー種の配合比の評価
Figure 2に、試料B、C、D、Fについて、横軸にPP、PEの配合比、縦軸にPP、PEのピーク面積比をプロットした図を示す。結果より、ポリマー種の配合比とピーク面積比の相関が得られ、GC-QMSによる熱分解オイル中のポリマー種の配合比の評価が可能であることが示された。

Figure 2 ポリマー種配合比(PE/PP)と識別用化合物のピーク面積比(PE/PP)の相関
4. 結論
GC-QMSを用いた熱分解オイルの分析において、熱分解オイルは回収・保存時に低沸点成分が揮発する可能性がある。これを踏まえて識別用化合物を適切に設定することで、ポリマー種の迅速な特定および配合比の評価を行うことができた。
