ブランクチューブFI法とmsRepeatFinderによる炭化水素オイルのタイプ分析
MSTips No. 517
はじめに
ブランクチューブ-FI (Field Ionization)法はサンプルをGC注入口に導入し、ブランクチューブを通過させた後、ソフトイオン化のFI法で検出する。一分以下の測定で分子イオンを検出することが可能である。オイルのような炭化水素の混合物を測定した際は、複数の分子イオンピークを含んだ複雑なマススペクトルが得られる。その解析にはポリマー解析用ソフトウェアmsRepeatFinderのケンドリックマスディフェクト(KMD)解析が有効である。またmsRepeatFinder Ver9では新たに炭化水素タイプ分析機能を追加、より簡便にオイル分析が可能となった。本MSTipsではサンプルとして原油、軽油、熱分解オイルの3つの炭化水素オイルを用い、炭化水素タイプ分析で得られる炭素数-DBEプロットについて解説するとともに、分析の結果得られた3つのサンプルの特徴について紹介する。

Figure 1 ブランクチューブFI法の模式図
実験
サンプルにはメキシコ湾原油(NIST SRM 2779)、石油製品試験用の 軽油(関東化学株式会社 24107-08)、ポリエチレン(PE)由来の熱分解オイルを用いた。各サンプル1µLをGC注入口に注入し、ブランクチューブFI法で測定した。原油と軽油はスプリット比=20:1、熱分解オイルは実験装置からの回収工程でクロロホルム希釈されているためスプリットレスとした。分析条件の詳細をTable 1に示す。
Table 1 分析条件の詳細

結果
Figure 2に原油のマススペクトル、KMDプロット、炭素数-DBEプロットを示す。KMDプロットでは観測質量(m/z)にCH2=14.00となる係数を掛けて算出したケンドリックマスの整数部分(ノミナルKM)を横軸、小数部分(KMD)を縦軸にプロットする。このときKMD値は水素数のみに依存するため、縦方向はDBE=0、1、2・・・の順に整列する。炭素数-DBEプロットはこれをより明示化したものである。

Figure 2 原油のマススペクトル、KMDプロット、炭素数-DBEプロット
Table 2にDBEごとの強度比、平均分子量(Mn、Mw)、分散度を示す。炭化水素タイプ分析機能では、これら数値情報も自動で取得可能である。
Table 2 DBEごとの強度比、平均分子量、分散度

Figure 3に各サンプルの炭素数-DBEプロットを示す。原油は飽和炭化水素(DBE=0)を最大としつつ広範囲に均一な分布が見られた。軽油は精製工程に由来する炭素数の低減とともに残留しやすい芳香族(DBE=4)が特徴的に見られた。熱分解オイルは原料であるPE由来のDBE=1を中心とした狭い分布が見られた。この様に炭素数-DBEプロットではKMD解析の専門知識がなくても、オイルの定性情報を視覚的して確認可能であった。

Figure 3 炭素数-DBEプロット
まとめ
ブランクチューブFI法とmsRepeatFinderにより炭化水素オイルの迅速分析を行った。炭素数-DBEプロットを用いることで、原油、軽油、熱分解オイルの特徴を容易に確認することができた。
謝辞
熱分解オイルを提供していただいた東北大学 熊谷将吾准教授、吉岡敏明教授に深く感謝申し上げます。
