ブランクチューブFI法とmsRepeatFinderによる熱分解オイルの差異分析
MSTips No. 518
はじめに
ブランクチューブ-FI (Field Ionization)法はサンプルをGC注入口に導入し、ブランクチューブを通過させた後、ソフトイオン化のFI法で検出する。一分以下の測定で分子イオンを検出することが可能である。オイルのような炭化水素の混合物を測定した際は、複数の分子イオンピークを含んだ複雑なマススペクトルが得られる。その解析にはポリマー解析用ソフトウェアmsRepeatFinderのケンドリックマスディフェクト(KMD)解析が有効である。また異なるサンプル間の微小な差異を抽出するには差異分析機能が有効である。本MSTipsではサンプルとして市販の熱分解オイルと実験的に作成したモデルオイルを用い、差異分析で得られた結果について紹介する。

Figure 1 ブランクチューブFI法の模式図
実験
市販オイルは混合廃プラスチックから製造されたものを使用した。モデルオイルは試薬グレードのポリエチレン(PE)45mg、ポリプロピレン(PP)45mg、ポリ塩化ビニル(PVC)10mgを混合し、ヘリウム雰囲気下で500℃15分加熱して生成した。市販オイルはスプリット20:1、モデルオイルは作成時にクロロホルムで希釈されるため、スプリットレスとした。また差異分析においてボルケーノプロットを作成するため、各サンプルn=5の繰り返し測定を行った。分析条件の詳細をTable 1に示す。
Table 1 分析条件の詳細

結果
Figure 2にモデルオイルのマススペクトルおよびKMDプロットを示す。PE・PPに由来するDBE=0~2の直鎖炭化水素のグループとPVCに由来するDBE=4以上の多環芳香族のグループが観測された。

Figure 2 モデルオイルのマススペクトルとKMDプロット
Figure 3に市販オイルのマススペクトルおよびKMDプロットを示す。結果はモデルオイルと類似しており、主原料はPE、PP、PVCであると推測された。またモデルオイルに比べ分子量分布が低質量(低沸点)側に寄っていることが確認された。これらの差異は温度条件や回収法の違いに起因すると考えられる。

Figure 3 市販オイルのマススペクトルとKMDプロット
Figure 4にボルケーノプロットとその差異抽出結果を反映したKMDプロットを示す。ボルケーノプロットはマススペクトル上のイオンピークを、横軸サンプル間強度比 Log2(A/B)、縦軸統計的有意差 –Log10(p-value)でプロットしたものである。これを用いて有意差のあるピークを抽出することで、サンプル間の細かな差異まで視覚化して確認することが可能である。KMDプロットではサンプル間の分子量分布の差に加え、いくつかの特徴的なピークが確認された。市販オイルからはC7H6O2 (安息香酸、PET熱分解物)、C7H5N (ベンゾニトリル、PETとニトリルの共熱分解物)、C6H11NO(カプロラクタム、ナイロン熱分解物)と推測される成分が確認された。またモデルオイルからはC16H32O2 (パルミチン酸、皮脂に含まれる)、C18H36O2 (ステアリン酸、皮脂に含まれる)と推測される成分が確認された。*ブランクチューブFI法では組成式までしか導出できないため、構造式の特定にはGC-MS法の併用が必要である。

Figure 4 ボルケーノプロットとKMDプロット
まとめ
ブランクチューブFI法とmsRepeatFinderにより熱分解オイルの差異分析を行った。ボルケーノプロットを用いることで、分子量分布の違いや微小な差異ピークの存在を確認することができた。
謝辞
熱分解オイルを提供していただいた東北大学 熊谷将吾准教授、吉岡敏明教授に深く感謝申し上げます。
