SPME-GC-MS/MS法による水中のカビ臭分析
MSTips No. 524
1. はじめに
水中のオフフレーバー(異臭)の原因物質としては、主に藍藻類などが産生する2-Methylisoborneol(2-MIB)やGeosminに加え、木材保存剤や農薬由来のクロロフェノール類が微生物代謝(メチル化)を経て生成されるアニソール類が知られている。これらは極めて低濃度でも不快な臭気を感じさせるため、水質管理において正確な把握が不可欠である。
本資料では、SPME-GC-MS/MS法により、これらカビ臭原因物質を一斉かつ迅速に分析した事例を紹介する。SPME法は、ポリマーコーティングを施した細いファイバーを試料水(またはヘッドスペース)に曝露し、対象成分を吸着・濃縮する手法である。今回、標準試料を用いて、濃度1pptにおける検出の可否と、定量のための検量線の直線性及び下限濃度の再現性について確認したので結果を報告する。
2. 実験
サンプルは、測定にはGC-MS/MS (JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQ, JEOL Ltd.製) を用いた。試料の前処理装置としてオートサンプラーHT2850TのSPMEモード(HTA s.r.l.製)を使用した。サンプルは、塩化ナトリウム4.0g とミネラルウォーター10mLを量り入れたヘッドスペース用バイアルに、2,4,6-Trichloroanisole, 2,4,6-Tribromoanisole, 2-MIB, Geosminを1, 2, 5, 10pptとなるよう添加し調製した。内部標準物質は2,4,6-Trichloroanisole-d3を20pptの濃度になるよう添加した。サンプルの測定条件をTable1に示す。
Table 1. Measurement condition

…Bold and underlined numbers are quantitation ions.

All-in-one GC Autosampler 2800T / 2880T

JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQ
3. 結果
3.1. 感度および選択性
1 pptの標準試料におけるSRMクロマトグラムをFigure 1に示した。各成分において、極めて良好なS/N比と明瞭なピーク形状が得られており、MS/MS法を適用することで、低濃度域における夾雑成分の干渉を効果的に排除し、極めてクリーンなクロマトグラムでの検出が可能であった。

Figure 1. SRM chromatogram of each component at 1 ppt
3.2. 検量線の直線性
1, 2, 5, 10 pptの4濃度点における検量線をFigure 2に示した。各成分において、相関係数が0.995 以上の高い直線性が得られた。

Figure 2. Calibration curve of each component
3.3. 再現性
1 pptの標準試料を5回繰り返し測定(n=5)した際の再現性を算出した結果、変動係数(CV%)は2-MIBが7.4%、Geosminが4.5%、2,4,6-Trichloroanisoleが3.0%、2,4,6-Tribromoanisoleが7.7%と、いずれの成分も、定量分析に求められる高い再現性(CV 10%以内)を十分に満たしている。
4. 結論
SPME-GC-MS/MS法を用いることで、水中のカビ臭成分(2-MIB, Geosmin, 2,4,6-Trichloroanisole, 2,4,6-Tribromoanisole)を、1 pptという極低濃度域で検出でき、且つ定量可能であることが示された。本手法は、煩雑な手作業を要さず全自動での運用が可能であることから、日常的な水質監視において極めて有効な手段である。
