FINE-AI Filterを用いた機械学習モデルによるマスイメージの画質改善
MSTips No. 526
マトリックス支援レーザー脱離イオン化 (MALDI) を用いたマスイメージング (MSI) 技術は、近年様々な分野で利用が拡大している。ソフトなイオン化法であるMALDI法を用いることで種々の分子の局在を可視化することが可能である。一方でMALDI-MSIは、主に次の2つの理由で抽出マスイメージのSN比が低いという課題がある。 I) 試料表面に噴霧したイオン化促進剤 (マトリックス) の結晶に不均一性が生じる。II) 各ピクセルは数10µm角程度の局所分析であるため、その領域から得られるイオン量が少ない。これらは特にピーク強度が低い微量成分の抽出マスイメージで顕著になると考えられる。そこで本報告では、走査電子顕微鏡画像 (SEM) の二次電子像で作成したノイズフィルター用の機械学習モデルをMALDI-MSIに適用して開発したFINE-AI Filterを用いた抽出マスイメージの画質改善を試みたので報告する。
実験
SEMの二次電子像を用いた機械学習モデルは次の手順で作成した。機械学習には、教師あり機械学習法である条件付き敵対的生成ネットワーク (cGAN) を使用した。まず、教師データとして高画質の二次電子像を3000枚程度準備した。次にその高画質画像に、ポアソン分布に従うショットノイズを数段階のSN比設定で付加した低画質画像を作成した。Figure 1のGeneratorに低画質二次電子像を入力すると、高画質二次電子像が生成される。 測定した高画質二次電子像と機械学習モデルが作成した高画質二次電子像の比較を繰り返し学習を行った。抽出マスイメージの画質改善には、 学習をさせたGeneratorを用いるが、SEMの画角は固定なのに対し、MALDI-MSIの画角は任意に設定ができるため、FINE-AI Filterでは変換方法に工夫をした。(i) マスイメージがSEM画像サイズより小さい場合は複数並べて変換し、一部を切り出す。(Figure 2左)、 (ii) (i) の変形でマスイメージをデータ取得時のサイズに対し、 x1, x2, x3を選択して拡大した後、画質改善を可能にした。(Figure 2中央)、(iii) マスイメージがSEM画像サイズより大きい場合は複数に分割して変換した後合成した。(Figure 2右)
Figure 1 SEM像を用いた画質改善モデルの開発
黒枠がSEM画像サイズ (固定)、青枠がMSI画像サイズ (可変)
Figure 2 SEM画像で作成した機械学習モデルをマスイメージに適用させる際の画像サイズ調整方法
結果
FINE-AI Filterを用いて、画質改善を行った結果を示す。サンプルにはマウス脳凍結組織切片を用いて、マトリックス DHBを噴霧した。測定は、NewSpiralTOF™のSpiralTOF 正イオンモードで実施した。ピクセルサイズ 40µm、画像サイズ 125×169 ピクセルでとした。Figure 3左上に平均マススペクトルを示す。m/z 700-1000にかけて多様な脂質 (主にフォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、ガラクトシルセラミド) を観測した。右上にm/z 820付近を拡大した。NewSpiralTOF™を用いることで、一般的なリフレクトロン型TOFMSには難しい同重体の分離を実現した。さて観測された脂質由来イオンの多くはイオン強度が相対的に低く画質は粗くなる。そこでFINE-AI Filterやガウシアンフィルター、ビニングなどによる画像改善の比較を行った。FINE-AI Filterは、一般的に使用されているガウシアンフィルターやビニングと比較して輪郭を維持したまま、画質が改善できた。FINE-AI Filterの倍率を変えた場合、倍率の小さい場合は細かな構造が失われ、倍率が大きい場合はノイズ除去があまり行われないことが分かった。今回の測定結果に対してはx2が適切だと考えられる。倍率はサンプルの構造やピクセルサイズに合わせて選択するとよいと考えられる。
まとめ
マスイメージの画質改善のために、走査電子顕微鏡で作成したノイズフィルター用機械学習モデルの適用を試みた。またその際にマスイメージに適用するための処理についても検討を行った。本方法は微小ピークのマスイメージやマトリックスの影響によりSN比の低いマスイメージの画質改善につながることが分かった。
Figure 3 FINEAI Filterによる画質改善
