高分解能MALDI-TOFMS “NewSpiralTOF™”と頂点成分分析を用いたマスイメージングデータの相分析
MSTips No. 528
マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージング質量分析法(MALDI-MSI)は、試料表面におけるタンパク質、ペプチド、代謝物、および薬剤の局在を可視化するために用いられる。 MALDI-MSIでは、マススペクトルにはターゲット化合物のピークに加えて、試料切片上の様々な化合物の影響を受けることが多く、高分解能質量分析計による質量分離は重要となる。 一方で、同重体を含む多数のピークがマススペクトル上に観測される場合に、1つ1つのピークの抽出マスイメージを作成し解析するには多大な時間を要する。 そこで、効率的なデータ解析のためには、特徴的なマススペクトルパターンの抽出とそれに基づいた相分析が不可欠となる。 本報告では、頂点成分分析(Vertex Component Analysis、VCA)を用いた相分析手法を紹介する。 また、その前処理として機械学習を用いたノイズ除去法(FINE-AI Filter)を適用した。
実験
VCAはハイパースペクトルデータセットであるMALDI-MSIから、指定した相の数だけエンドメンバー(各相を代表するピクセルのマススペクトル)を抽出する。 ここでエンドメンバーを含むピクセルをピュアピクセルと呼ぶ。 VCAではピュアピクセル以外のピクセルのマススペクトルは、抽出されたエンドメンバーの線形結合で表現される。 この様子をFigure 1に示す。 Figure 1の青四角はマスイメージデータの領域である。 そこから最も特徴的なエンドメンバーが相の数分のピュアピクセルから抽出される(青点:4つ) 。 それ以外のピクセル(赤点)は、この4つのエンドメンバーの線形結合として表現される。 たとえば赤点のピクセルは、それぞれの相のピュアピクセルのエンドメンバーに0.70、0.20、0.04、0.06を掛けて足し合わせるという形となる。 ここで各ピクセルに対する各相のエンドメンバーに掛かる係数をマップ化できることがわかる。 すなわちエンドメンバーの各ピクセルへの寄与を示すと同時に相分析を可能とする。 Figure 2に各相のマップおよびそれらを重ね合わせた像を示す。

Figure 1 VCAにおけるEndmemberの抽出

Figure 2 VCAにおける相マップの作成
結果
VCAをマウス脳の組織切片上の脂質のMSIデータに適用した。 まず、MSIデータに対して平均マススペクトルを作成する。 脂質データにはm/z 700-1000に多様な脂質のピークが観測された。 この平均マススペクトルから得られたピークリストをデアイソトープ処理し、イオン強度の大きい順に200個の抽出マスイメージを作成した。 Figure 3左にそのうちの75個の抽出マスイメージを示した。 次にFINE-AI Filterを使用して200個の抽出マスイメージに対して画質改善を実施した。 その結果のうち、Figure 3左に対応する75個についてFigure 3右に示す。 FINE-AI Filter処理後に抽出された200枚の抽出マスイメージに対してVCA(相数4)を実施した結果をFigure 4に示す。 FINE-AI Filterによって抽出マスイメージの画質改善を行なったことで、 VCAによるエンドメンバー検出後に得られる相マップもよりクリアになることが分かった。 VCAにより各相への分離および、 各相のピュアピクセルのマススペクトルの比較が可能である。 また、MSIデータに対して、VCAの相マップの強度分布で各ピクセルのマススペクトルを重みづけし積算したマススペクトルを生成し、より相間のマススペクトルを詳細に比較することも可能である(Figure 5)。
まとめ
高分解能MALDI-MSIデータをVCAを用いて解析し、特徴的なスペクトルパターンの抽出とそれに基づく相分析を実施した。 また、前処理としてFINE-AI Filterの画質改善を適用することで、VCAをより効果的に実施できることが分かった。

Figure 3 VCAの前処理としてFINE-AI Filterによる画質改善

Figure 4 VCAの結果

Figure 5各相のマススペクトル生成と比較
