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二核遷移金属錯体の複合分析 [MALDI-TOFMS, DART-TOFMS and NMR Application]

NM230003

遷移金属は、他の分子と容易な電子の授受を可能にする不完全に充填されたd軌道を有するため、優れた触媒特性を示す。一般的な遷移金属錯体は、一つの中心金属で形成される単核錯体である (Figure 1)。一方で、二つの中心金属から形成される二核錯体は、単核とは異なる物性や触媒活性を持つことから、新しい遷移金属触媒や触媒プロセスの研究において注目されている。本アプリケーションノートでは、亜鉛およびロジウムのアセチルアセトナート錯体分子を例に、単核および二核錯体の質量分析計 (MS)、 および核磁気共鳴装置 (NMR) による複合分析について紹介する。

Figure 1. アセチルアセトナート錯体の例、XtaLAB Synergy-ED

亜鉛 (Ⅱ) アセチルアセトナート錯体の MS-NMR 複合分析 

Figure 2. Zn(acac)2 錯体のMS-NMR複合分析結果

JMS-S3000 SpiralTOF™-plus 2.0による (a) 精密質量分析結果、JMS-T100LP AccuTOF™ LC-Express による (b) 精密質量分析結果、JNM-ECZL 500Rによる (c) 1H-13C HSQC : 青, HMBC : 桃, Chloroform-d溶媒、(d) 1H DOSY 分析結果

 

錯体分子の分子構造は、SpiralTOF™-plus 2.0 、およびJMS-T100LP AccuTOF™ LC-Express による精密質量分析、さらにJNM-ECZL 500R による配位子のNMR 分析から詳細な解析が可能である。Figure 2 に、 Zn(acac)2 錯体のMSおよびNMRによる複合分析結果を示す。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析法 (MALDI-TOFMS) (Figure 2(a)) 、およびDART™ (Direct Analysis in Real Time) (Figure 2(b))による精密質量の分析結果から、分子式を推定することができる。また、測定された二次元NMRスペクトル (Figure 2(c)) から、MS 分析で推定された分子構造を相補的に解析することが可能である。MS-NMR分析より、単核錯体であるZn(acac)2 錯体 C10H14O4Zn の精密質量および配位子の配位状態が示された。またNMR 分析結果から、試料溶液にケト形とエノール形の両方が含まれていることを確認できた。本測定条件では、 Zn(acac)2 錯体において主成分であるエノール形に対して、約2%のケト形が確認された。またMS 分析結果から、Zn2(acac)3 二核錯体の存在が推測された。混合物などのNMRスペクトルについては、分子の自己拡散係数に基づいて解析することが可能である。DOSY (Diffusion-ordered spectroscopy) では、横軸が化学シフト、縦軸が自己拡散係数の二次元プロットが得られる (Figure 2(d))。Figure 2(d) より、同じ化学シフト位置において異なる自己拡散係数に対応する分布が得られた。以上のことから、MS 分析結果より推測された Zn2(acac)3二核錯体について、 NMR DOSY 結果においても同様に二核錯体の存在が示された。

ロジウム(Ⅲ) アセチルアセトナート錯体の MS-NMR 複合分析  

Figure 3. Rh(acac)3錯体のMS-NMR複合分析結果

JMS-S3000 SpiralTOF™-plus 2.0による (a) 精密質量分析結果、JMS-T100LP AccuTOF™ LC-Express による (b) 精密質量分析結果、JNM-ECZL 500Rによる (c) 1H NMR スペクトル, Chloroform-d溶媒、(d) 1H DOSY 分析結果

 

Figure 3に、Rh(acac)3 錯体のMSおよびNMRによる複合分析結果を示す。 Figure 2における二核錯体の存在が示された亜鉛(Ⅱ)アセチルアセトナート錯体とは異なり、単核錯体であるRh(acac)3 錯体 C15H21O6Rh の精密質量のみ観測された (Figure 3(a)および(b))。Figure 3(d)より、NMR DOSY 結果においても異なる自己拡散係数に対応する分布は得られず、MS 分析結果と同様の傾向が示された。

まとめ

本アプリケーションノートでは、アセチルアセトナート錯体 Zn(acac)2 および Rh(acac)3 について、MALDI-TOFMS、DART-TOFMS、およびNMR 分析による包括的な解析結果について報告した。MS 分析から得られる推定分子構造は、NMR 分析から得られる配位子の分析結果から相補的に解析することが可能である。さらに、MSと NMR DOSY による複合分析は、二核錯体の分子構造解析において有効な方法の一つである。

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