msFineAnalysis Ver2を用いた脂肪酸メチルエステル類の統合解析 - FI法による分子イオン検出 - [GC-TOFMS Application]
MSTips No.301
はじめに
ガスクロマトグラフ質量分析法で使用される電子イオン化 (Electron Ionization, EI) 法は、フラグメントイオンを生成しやすいハードイオン化法の一つであり、取得したマススペクトルとライブラリー登録されたマススペクトルを比較することで化合物の同定を行うことできる。それに対し、電界イオン化 (Field Ionization, FI) 法などのソフトなイオン化法では、フラグメントイオンの生成が最小限に抑えられ、分子イオンの情報を得ることができる。またガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計ではEI法で生じたフラグメントイオンと、ソフトイオン化法で生じた分子イオンの双方から精密質量情報が得られる。これら精密質量情報と従来のライブラリサーチの結果を統合することで、EI法のライブラリーサーチのみを用いた場合よりも同定確度を向上させることができる。
脂肪酸メチルエステル (FAMEs) は、食品中の脂質量を知るための重要な成分であり、また環境負荷が少ない性質からバイオディーゼル燃料としての用途も増えている。FAMEsとしてはアルキル鎖に二重結合を有する不飽和FAMEsが数多く存在しているが、二重結合数が増える (不飽和度が増す) とEI法では分子イオンを検出し難くなる傾向がある。そこで今回、FAMEs標準試料をEI法、FI法にて測定し、分子イオン検出の確認を行った。得られたデータをmsFineAnalysisにて解析を行い、ライブラリデータベース検索と、分子イオン精密質量解析を組み合わせた統合解析を実施したので結果を報告する。
結果
測定試料は市販のFAMEs37成分混合標準液 (Restek社製、200-600ng/uL) を用いた。測定条件をTable 1に示す。
次頁Fig.3にGC/EI及びGC/FIのTICCを示す。今回測定した試料には37成分が含まれているが、cis-4,7,10,13,16,19-Docosahexaenoic acid methyl esterとHeneicosanoic acid, methyl esterは保持時間 (R.T.) が完全に一致しており、R.T. 38.8分付近に1つのピークとして観測された。しかし、このピークのFIマススペクトルを作成したところ、Fig.1に示すように両成分の分子イオンを確認することができた。JMS-T200GCは常時高分解能状態で測定を行うため、クロマトグラム分離が不十分なケースであっても、質量分離により成分を同定することが可能となる。
Table 1 Measurement condition
[GC condition] | |
GC system: | 7890A GC (Agilent Technologies) |
Column: | ZB-5MSi (Phenomenex), 30m x 0.25mm, 0.25μm |
Oven Temp.: | 50°C (1min)→10°C/min→140°C→3°C/min→260°C (5min) |
Inj. Mode: | Split mode (50:1) |
[MS condition] | |
MS system: | JMS-T200GC (JEOL Ltd.) |
Ion source: | EI/FI combination ion source |
Ionization: | EI+: 70eV, 300μA |
FI+: -10kV, 50mA (slope mode) | |
Mass Range | m/z 35-800 |
Fig.1 FI mass spectrum (enlarged) at R.T. 38.8min
Fig.2 EI and FI mass spectrum for 5,8,11,14,17-Eicosapentaenoic acid, methyl ester, (all-Z)-
観測した全ての成分のFIマススペクトル中で、分子イオンを確認することができた。また15-Tetracosenoic acid, methyl ester, (Z)-以外の成分では分子イオンがベースイオンとして観測された。なお、15-Tetracosenoic acid, methyl ester, (Z)-においても分子イオンは相対強度80%以上で観測されており、FI法が極めてソフトにFAMEsをイオン化できることが確認できた。例えばFig.2に示すように、アルキル基中の二重結合数が5つの5,8,11,14,17-Eicosapentaenoic acid, methyl ester, (all-Z)-においても、FIマススペクトルでは分子イオンをベースイオンとして検出することができた。Fig.4にエステル結合を除く部分の炭素数が20で二重結合数0~5の計6成分のFIマススペクトルと、該当する構造式を示す。
最後にmsFineAnalysisを用いた統合解析を実施した結果をTable 2に示す。全成分の分子イオン精密質量解析から組成式を得ることができており、ライブラリデータベースの結果を補完することができた。