GC-QMS Application: 熱分解GC/EI法およびPI法を組み合わせた市販ポリプロピレン製品の解析① ~msFineAnalysis iQによる統合解析の紹介~

  • 概要

MSTips No.347

はじめに

ガスクロマトグラフ四重極質量分析計 (GC-QMS) は、揮発性化合物の定性/定量分析装置として幅広く活用されている。GC-QMSによる定性分析は、電子イオン化 (Electron Ionization, EI) 法の測定データを用いたライブラリーデータベース (DB) 検索が一般的である。ただし、ライブラリースペクトルとの類似度のみを指標に定性解析を行うと、化合物によっては複数の有意な候補が得られる場合や、誤った候補が同定結果として選択される場合がある。このような場合、光イオン化 (Photoionization, PI) 法をはじめとするソフトイオン化 (SI) 法による分子イオンの確認が有効となる。
弊社では、ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計 (GC-TOFMS) で測定したEI法, SI法の解析結果を自動で組み合わせる統合定性解析ソフトウェア"msFineAnalysis"を2018年にリリースしている。msFineAnalysisは、EI法で取得したマススペクトルを用いたライブラリーDB検索と、SI法で取得したマススペクトル中の分子イオンの解析を組み合わせる"統合解析"により定性確度を向上することができるソフトウェアである。msFineAnalysisはGC-TOFMSの精密質量データを解析するソフトウェアであるが、統合解析の有用性は整数質量データに対しても期待できる。
今回、GC-QMSで得られる整数質量データに対応した統合定性解析ソフトウェア "msFineAnalysis iQ" を新規に開発した。本MSTipsでは、msFineAnalysis iQを用いた市販ポリプロピレン製品の熱分解 GC/MS測定結果の解析例、とくに統合解析の有用性について報告する。

測定条件

試料には市販ポリプロピレン製品である、お弁当用抗菌シートを用いた。測定にはGC-QMS (JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta, 日本電子製) を用いた。試料の前処理装置として熱分解装置 (PY-3030D, フロンティアラボ社製) を使用し、加熱炉の温度は400℃に設定した。イオン化法はEI法および、ソフトイオン化法としてPI法を用いた。熱分解 GC/MS測定の詳細条件はTable 1に示す。測定で得られたデータはGC-QMS専用統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQ (日本電子製) を用いて解析した。

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta

Table 1 Measurement condition

Py
サンプル量 EI: 0.4 mg, PI: 0.5 mg
熱分解温度 400°C
GC
カラム ZB-5MSi(Phenomenex社製)
30 m×0.25 mm I.D., df=0.25 µm
注入口温度 320°C
オーブン昇温条件 40°C (2 min) → 20°C/min → 320°C (20min)
注入モード Split 100:1
キャリアガス He, 1.0 ml/min (Constant Flow)
MS
イオン源温度 250°C
インターフェース温度 280°C
イオン源 EI/PI共用イオン源
イオン化法 EI法 (70 eV, 50 µA), PI法 (約8~10 eV)
測定モード Scan (m/z 35 - 700)

msFineAnalysis iQの統合定性解析フロー

Figure 1に従来のEI法のライブラリーDB検索のみでの解析フロー (左側) と、msFineAnalysis iQ による統合定性解析フロー (右側) を示す。本ソフトウェアでは、始めにEI法とソフトイオン化 (SI)法で得られたデータに対し、クロマトグラム上のピークを検出してマススペクトルを作成する (①)。各イオン化法のマススペクトルは保持時間情報に基づき紐づけられ、1成分として記録される (②)。また、SI法で得られたマススペクトル中で分子イオンを自動で選択する (③)。次に、EI法で得られたマススペクトルを用いてライブラリーDB検索を行い (④)、リテンションインデックスによる検索結果候補の絞り込み (⑤)および、ライブラリーDB検索結果の化合物の分子量がEI法, SI法のマススペクトルに存在するか確認することで (⑥)、ライブラリー検索結果を絞り込む。最後に、これらの結果を統合し総合的な解析結果を得る (⑦)。
なお設定可能なSI法としては、化学イオン化 (CI) 法、光イオン化 (PI) 法、低イオン化エネルギーEI法がある。

左側に従来の定性解析のフローチャート、右側にmsFineAnalysis iQ による解析フローチャートを掲載した図

Figure 1 Qualitative analysis flow

結果

お弁当用抗菌シートの熱分解 GC/MS測定の結果、Figure 2に示すトータルイオンカレントクロマトグラム (TICC) が得られた。このクロマトグラムの中で、最も強度が高いピーク [033] のマススペクトルをFigure 3に示す。EI法、PI法のどちらのマススペクトル上においても分子イオンと推定されるm/z 174のイオンを検出することができ、PI法では分子イオンのみのよりシンプルなマススペクトルが得られた。 また、msFineAnalysis iQによる統合解析結果リスト (上位5候補) をTable2に示す。この結果より、ピーク [033] の成分はライブラリーDB検索との類似度が964と算出された「Benzene, 1,3-diisocyanato-2-methyl-」であると推定された。
さらに、デコンボリューションによって得られたピーク [016] のマススペクトルをFigure 4に示す。EI法では分子イオンが検出されなかったのに対し、PI法では分子イオンを検出することができた。msFineAnalysis iQによる統合解析結果リスト (上位5候補) をTable3に示す。本成分は複数の有意なライブラリーDB検索候補が得られ、それら候補の類似度は800以上と高い結果となった。しかし、PI法により分子イオンがm/z 168ということが判明しているため、本成分は「1-Nonene, 4,6,8-trimethyl-」であると推定された。以上のように、ライブラリーDB検索結果が複数候補となる場合でも、統合解析により一意の結果を決定することが可能であった。

Figure 2 Total ion current chromatograms

Figure 3 Mass spectra of peak [033]

Figure 4 Mass spectra of peak [016]

Table 2 Integrated qualitative analysis result of peak [033]

Table 3 Integrated qualitative analysis result of peak [016]

まとめ

本報告では、新規に開発したmsFineAnalysis iQによる統合解析の有用性について報告した。 ライブラリーDB検索では候補が複数となるような化合物に対しても、統合解析により一意の結果に決定することができた。本ソフトウェアを用いることで、GC-QMSを用いた定性解析の定性確度向上や効率的な解析作業が期待される。

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