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LR-HSQMBCの使い方 小さなカップリングを効率よく観測する

NM200014

異種核の遠距離相関を得る測定法として最も一般的に用いられるのはHMBCです。HMBCでは主に2結合および3結合離れた相関信号が観測され、ごく限られた構造のみ4結合相関が観測されます。必要な相関信号のカップリングに合わせてパラメータを設定することで最も効率よく観測されます。
絶対値処理されるため気になりませんが、HMBCの信号パターンは図1に示すような正負の信号であるanti-phaseです。このような信号は図1 b)に示すように近すぎると互いの信号を打ち消しあうよう作用します。そのため小さなカップリングの相関信号は相殺されて観測が難しくなります。
この問題を解決するため、D-HMBC (Decoupled HMBC) ※1 やLR-HSQMBC (Long Range Heteronuclear Single Quantum Multiple Bond Correlation) が開発されました。いずれも図2 a)のようなin-phaseの形で観測するため、小さなカップリングでも信号の相殺が起こらず、また間接観測核のデカップリングが可能です。そのため、カップリングの小さな信号をHMBCよりも高感度で観測できます。
ただしD-HMBCでは間接観測軸がJHHの影響で分裂し分離能が低下してしまうため、本資料ではその点が改善されたLR-HSQMBCについて詳しく紹介してきます。

図1: HMBCの信号パターンの模式図

図1: HMBCの信号パターンの模式図
a) 大きなカップリング、 b) 小さなカップリング

図2: LR-HSQMBC(non dec)の信号パターンの模式図

図2: LR-HSQMBC(non dec)の信号パターンの模式図
a) 大きなカップリング、 b) 小さなカップリング

図3はLR-HSQMBCのパルスシーケンスです。HMBCで観測されづらい信号を観測したい場合にはnJXHを小さな値に設定します。NMRソフトウェアDeltaのVer.5.2.0から標準搭載されており、パルスシーケンス名はlrhsqmbc.jxpです。

図3: LR-HSQMBCのパルスシーケンス

図3: LR-HSQMBCのパルスシーケンス

LR-HSQMBCの参考資料

R. Thomas Williamson, Alexei V. Buevich, Gary E. Martin, Teodor Parella, J. Org. Chem.2014, 79, 3887-3894.
R. Thomas Williamson, Alexei V. Buevich, Gary E. Martin, Tetrahedron Letters 55 (2014) 3365-3366.

Vinclozolinの芳香環領域に着目し1H-13C HMBCと1H-13C LR-HSQMBCで測定条件を変えて相関信号を比べます。一般的に芳香環の遠距離相関は3JCHが最も大きいため、高感度に観測されます。

1H-13C HMBC

図4はHMBCの測定結果です。long_range_jの値を8Hz a), 2Hz b)と変えた場合の比較スペクトルになります。H4,H5からそれぞれ2JCH, 3JCHの相関がすべてa)の条件で観測されていますが、b)に変更しても新たな情報は得られませんでした。

図4: HMBCの拡大図 a) scans: 8, long_range_j: 8Hz 、 b) scans: 32, long_range_j: 2Hz

図4: HMBCの拡大図 a) scans: 8, long_range_j: 8Hz 、 b) scans: 32, long_range_j: 2Hz

1H-13C LR-HSQMBC

図5はLR-HSQMBCの測定結果です。a)ではHMBCと同様にH4,H5からそれぞれ2JCH, 3JCHの相関がすべて観測されています。
b)の条件ではHMBCで観測されなかった4JCHのH5/C6相関が観測されました。なおH5/C6のカップリング定数は2.2Hzです。
HMBCは絶対値、LR-HSQMBCは位相検波であり、測定時間を合わせるためにLR-HSQMBCの積算回数は半分に設定しています。

図5: LR-HSQMBCの拡大図 a) scans: 4, long_range_j: 8Hz 、 b) scans: 16, long_range_j: 2Hz

図5: LR-HSQMBCの拡大図 a) scans: 4, long_range_j: 8Hz 、 b) scans: 16, long_range_j: 2Hz

試料: 5mg Vinclozolin in DMSO-d6
使用装置: JNM-ECZ500R, ROYALプローブ™ HFX

1H-15N相関は1H-13C相関と同等かわずかに小さなカップリング定数を持ちます。そのためLR-HSQMBCは1H-13C相関だけでなく1H-15N相関についても応用が期待できます。
15N核は直接相関がより困難な核種ですので、構造解析の際には1Hとの相関の情報が頼りです。しかし3JNH3JCHよりもカップリング定数のばらつきが大きく、3JNH相関さえ1回のHMBCですべてカバーできるとは限りません。そういった点でもLR-HSQMBCの情報が役立つのではないかと思われます。

1H-15N HMBCと1H-15N LR-HSQMBC

図6にa) HMBC, b) LR-HSQMBCの測定結果です。a)では3JCHのH4/Nの相関のみが観測されましたが、b)ではそれに加えて4JNHのH1/Nの相関も観測することができました。なおH4/Nのカップリング定数は4.2Hz, H1/Nのカップリング定数は1.5Hzです。

図6: a) HMBC scans: 32, long_range_j: 2Hz 、 b) LR-HSQMBC scans: 16, long_range_j: 2Hz

図6: a) HMBC scans: 32, long_range_j: 2Hz 、 b) LR-HSQMBC scans: 16, long_range_j: 2Hz

試料: 5mg Vinclozolin in DMSO-d6
使用装置: JNM-ECZ500R, ROYALプローブ™ HFX

各測定法の特徴と使い分け

異種核遠距離相関の測定法の特徴を下記に記します。解析の手順としてまずはHMBCを測定し、解析を行います。もしHMBCの相関が2結合の相関なのか、3結合の相関なのかの判別がつかない場合にH2BCや1,1-ADEQUATEを検討します。
1Hリッチな試料ではH2BCで、13Cに比べて1Hが少ない場合は1,1-ADEQUATEでHMBCの相関のうちの2結合の相関を判別します。
またヘテロ原子や4級炭素が多く、HMBCで必要な情報が十分に得られない場合にはLR-HSQMBCを検討します。

HMBC--- 主に2JCH, 3JCHの相関が観測されます。
H2BC※2--- 2JCH相関が選択的に観測されます。ただし4級炭素との相関は観測できません。
1,1-ADEQUATE※3--- 1JCH, 2JCHの相関が観測されます。4級炭素との相関も観測可能です。ただし感度は悪い測定法です。
LR-HSQMBC--- 設定値に近いカップリングの信号が観測されます。ただし単体で結合数の情報を得るのは難しいです。

参考資料

※1 Kazui Furihata, Haruo Seto , Tetrahedron.letters 36(1995),2817-2820
※2 JEOL アプリケーションノート NM070003
※3 JEOL アプリケーションノート NM160002

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