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反応熱分解GC-TOFMSによる紫外線照射したポリエチレンテレフタレートの構造変化の解析

MSTips No. 392

MSTips No. 392

はじめに

高分子材料は光、酸素、熱などの影響により劣化することが懸念され、それに伴う構造変化の評価は非常に重要である。熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析 (Py-GC-MS) 法は、高分子材料分析に幅広く活用されており、ポリマーの構造解析に有効な手法である。しかし、ポリエチレンテレフタレート (PET) をはじめとする主鎖にエステル結合を含む縮合系ポリマーは、熱分解GC-MS法による分析では試料の大部分が固形残留物として試料カップに残存することや、極性成分によりブロードなパイログラムが得られること等から解析が困難になることが知られている1), 2)。これに対し、エステル結合の加水分解と副反応を抑えるメチル誘導体化を同時に行える反応熱分解GC-MS法は縮合系ポリマーの分析に適しており、PETの微小な構造変化の分析に有効な手法と考えられる。
熱分解生成物はライブラリーデータベースに未登録であるケースが多い。従って、飛行時間質量分析計 (TOFMS) で得られる精密質量マススペクトルを用いてソフトイオン化法で生成する分子イオンや、電子イオン化(EI)法で生成するフラグメントイオンから構造推定を行うことが重要である。しかし、構造推定は解析者自身による考察が必要であり、その作業には質量分析や科学に関する知見と多くの時間が求められた。そこで、弊社では深層学習によるマススペクトル予測を組み込んだ網羅的な構造解析手法(以後AI構造解析と称す)を搭載したソフトウェアmsFineAnalysis AIを開発した。本ソフトウェアは、EI法とソフトイオン化法で得たマススペクトルを用いた"統合解析"で得た情報と、深層学習モデルにより得た予測マススペクトルを用いて構造を推定する。 msFineAnalysis AIの概要はMSTips No. 388, 389, 390, 391で紹介している。
本MSTipsでは反応熱分解GC-TOFMSにより紫外線 (UV) 照射前後のPETフィルムの測定を行い、msFineAnalysis AIによる2検体差異分析およびUV照射後に特徴的な成分の構造推定を実施した結果について報告する。

実験

サンプルには市販のポリエチレンテレフタレート (PET) フィルムを用いた。PETフィルムはUV硬化装置 ハンディキュアラブ (セン特殊光源社製、照度:170 mW/cm2, 発光長 30 mm, 主波長365 nm) を用いて、10時間UV照射した。
測定には、パイロライザーを装着したガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計JMS-T2000GC (日本電子製) を使用した。
UV照射前後のサンプルを、水酸化テトラメチルアンモニウム25%w/w メタノール溶液 (TMAH) 10 µLとともに測定に供した (EI法: n=3, FI法: n=1) 。サンプル量は、EI法で0.2 mg、FI法で0.5 mgとした。得られたデータは、msFineAnalysis AI (日本電子製) を用いてUV照射0hとUV照射10hの2検体試料間の差異分析を行った後、UV照射後に特徴的な成分の定性解析および構造推定を行った。その他の詳細条件は、Table 1に示す。

MS-T2000GC

ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計
JMS-T2000GC

msFineAnalysis AI

msFineAnalysis AI

 
Table 1  Measurement and analysis conditions
Pyrolysis conditions
Pyrolyzer EGA/PY-3030D (Frontier Lab)
Pyrolysis Temperature 400°C
GC conditions
Column DB-5MS UI (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm, 0.25 μm
Oven Temperature 40°C (2 min) -20°C/min - 320°C (10 min)
Injection Mode Split mode (100:1)
Carrier flow He: 1.0mL/min (Constant Flow)
MS conditions
Spectrometer JMS-T2000GC (JEOL Ltd.)
Ion Source EI/FI combination ion source
Ionization EI+:70eV, 300μA
FI+:-10kV
Mass Range m/z 29-600
Data processing condition
Software msFineAnalysis AI (JEOL Ltd.)
Library database NIST20, AI Library (JEOL Ltd.)

結果

差異分析によるUV照射後(10h)に特徴的な成分の検討

Figure 1にEI法で測定した結果のTICCを示す(青色:0h, 赤色: 10hのオーバーレイ)。TICCより、PETの主鎖由来の反応熱分解生成物である3成分(A, B, C)が強く検出された。これらはUV照射前(0h)とUV照射後(10h)のサンプルにおける共通成分であった。UV照射前後のサンプルについて統計的再現性を考慮した2検体差異分析を行った結果、UV照射後に特徴的な成分がRT 9~13 min付近に12成分抽出された (Figure 1, Expand)。この12成分をmsFineAnaysis AIにより統合解析し、組成式を一意に決定した結果をTable 2に示す。Table 2中のID:001、003、010はNIST20を用いたライブラリーサーチの結果、類似度スコア750以上が得られておりピークリスト記載の化合物と推定された。これら3成分の構造式は、Table 3に示した。その他の9成分は類似度スコア750以下であり、ライブラリーデータベース未登録成分であると推測された。この9成分について、AI構造解析機能を用いて構造推定を実施した。

Figure 1 TICC of EI (Blue:0h, Red:10h )

Figure 1 TICC of EI (Blue:0h, Red:10h )
Table 2 Peak list of Integrated Analysis Results

ライブラリーデータベース未登録成分の自動構造解析結果

ライブラリーデータベース未登録の9成分について、msFineAnalysis AIのAI構造解析機能を用いて自動構造解析を行った。さらに、本ソフトウェアの内蔵機能により、メチルエステル基を持つ化合物のみ絞り込みを行い、これらメチルエステル基を持つ化合物からPETの構造式および反応熱分解を考慮した結果をTable 3に示す。ライブラリーデータベース未登録化合物についても予測構造式を得ることができた。

Table 3 Structural formula list of characteristic components after UV irradiation

Table 3 Structural formula list of characteristic components after UV irradiation

結論

本報告では、反応熱分解GC-TOFMS法を用いたPETのUV照射による構造変化についての解析例を示した。反応熱分解GC-TOFMS法は、エステル結合の加水分解とメチル化により生じる熱分解生成物を解析するためUV照射前後の差異分析が行いやすいことが分かった。また、 msFineAnalysis AIのAI構造解析機能を用いて自動構造解析を行った結果、ライブラリーデータベース非掲載化合物についても構造式を予測することができた。UV照射によりPETそのものに生じる構造変化の解釈に対しても、AI構造解析機能により得られた予測構造式が活用されることが期待できる。

参考文献

  • 石田康行他, 分析化学, 47, p. 673-688 (1998)

  • 柘植新他, "高分子の熱分解GC/MS", 柘植新編, テクノシステムズ, 東京(2006), 1章, p. 33

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