固相マイクロ抽出(SPME)-GC-MS法によるカビ臭原因物質の分析
MSTips No.440
はじめに
固相マイクロ抽出(SPME)法は、液体や固体試料から発生する揮発成分を抽出・濃縮する方法である。捕集した揮発成分が全量注入されるため高感度に測定することが可能であり、異臭分析等で幅広く使用されている。「水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法」では、カビ臭原因物質である2-Methylisoborneol(→2-MIB)およびGeosminの分析方法として、SPME法が別表27の2として定められている。今回、カビ臭原因物質をSPME-GC-MS法で測定し、「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」に基づく、検量線のキャリーオーバー・真度・精度を確認したので結果を報告する。
HT2850T
JMS-Q1600GC
UltraQuad™ SQ-Zeta
実験
測定はHTA社製のGC用オートサンプラーHT2850Tと、ガスクロマトグラフ質量分析計JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを使用した。HT2850Tは、分析用途に応じてHSモード、液体注入モード、固相マイクロ抽出(SPME)モードに対応可能な、オールインワンGC用オートサンプラで、今回はSPMEモードを使用して測定を実施した。サンプルは、塩化ナトリウム3.0g とミネラルウォーター10mLを量り入れたヘッドスペース用バイアルに、2-MIBとGeosminを1, 2, 5, 10pptとなるよう添加し調製した。内部標準物質は2,4,6-Trichloroanisole-d3(→TCA-d3)を20pptの濃度になるよう添加した。サンプルの測定条件をTable1に示す。
Table 1. Measurement condition
…Bold and underlined numbers are quantitation ions.
結果
2-MIBおよびGeosminの各濃度のサンプルを試行回数n=3で測定した際の各繰り返しにおける検量線をFigure 1およびFigure 2に示した。また、繰り返し1回目の検量線をもとに算出した各濃度点における真度・精度及び最高濃度点測定後のキャリーオーバーの値をTable2に示した。検量線の直線性は、2-MIB・Geosminともに何れの繰り返しにおいても相関係数(r)が0.999以上と良好な直線性が得られた。検量線の真度については、何れの濃度点においても調製濃度の80%~120%であることが確認され、精度についても各濃度点の相対標準偏差が20%以下であることが確認された。キャリーオーバーについては、各繰り返しにおける最高濃度点測定後の定量値について検量線の下限濃度である1pptを下回ることが確認された。
繰り返し1回目における検量線の下限濃度に相当するSIMクロマトグラムをFigure3に示した。水質基準値の1/10の濃度である検量線の下限濃度(=1ppt)においても、2-MIBとGeosminが周辺のピークと十分に分離されて問題無く検出可能できていることがわかる。



Figure 1. Calibration curves for each repetition of 2-MIB



Figure 2. Calibration curves for each repetition of Geosmin
Table 2. 2-MIB and Geosmin accuracy, precision, and carryover
…The quantitative value at Prep. Conc. (ppt) = 0 is the carryover value.
Figure 3. SIM chromatograms of 2-MIB and Geosmin at 1ppt
結論
SPME-GC-MS法を用いてカビ臭原因物質である2-MIBおよびGeosiminを分析した結果、 検量線のキャリーオーバー・真度・精度について「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」が要求する基準を満たす結果が得られた。