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HS-SPME-GC-QMSと統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQを用いた大根おろしにおける揮発性成分の定性分析 [GC-QMS Application]

MSTips No.439

はじめに

食品の香気成分は、おいしさに関わる重要な要素として知られており、腐敗臭などのオフフレーバー成分も食品の品質に関わる重要な要素の一つである。これら食品の香気成分の分析には、香気成分の揮発性の高さや多数の成分が複合していることから、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)が多用されている。
GC-MSによる定性分析では、電子イオン化 (Electron Ionization, EI) 法の測定データを用いたライブラリーデータベース (DB) 検索により化合物同定を行うことが一般的である。ただし、ライブラリースペクトルとの類似度のみを指標に定性解析を行うと、化合物によっては複数の有意な候補が得られる場合や、誤った候補が同定結果として選択される場合がある。このような場合、光イオン化 (Photoionization, PI) 法をはじめとするソフトイオン化 (SI) 法による分子イオンの確認が有効となる。
弊社では、GC-QMSで測定したEI法, SI法の解析結果を自動で組み合わせる統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQを2021年にリリースした。msFineAnalysis iQは、EI法で取得したマススペクトルを用いたライブラリーDB検索と、SI法で取得したマススペクトル中の分子イオンの解析を組み合わせる”統合解析”により確度の高い定性解析結果を得ることができるソフトウェアである。msFineAnalysis iQは、2検体差異分析機能も有しており、サンプル間に特徴的な成分と共通成分を抽出することが可能である。本機能では、EI法のデータをn=3かn=5で取得することで統計的再現性を考慮した差異分析を行うことができるが、n=1のデータでも単純な強度比較を行うことが可能である。そこで、本MSTipsでは、msFineAnalysis iQを用いて「大根おろし」と「角切り大根」のデータ(各n=1)を比較した結果について報告する。

実験

試料にはおろし金ですりおろした「大根おろし」と、包丁で約1cm×1cm×1cmに切った「角切り大根」を用いた。大根の揮発性成分が熱に弱いことが危惧されたため、各試料は測定の直前に準備した。測定にはGC-QMS (JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta, 日本電子製) を用いた。試料の前処理装置としてオートサンプラーHT2850TのSPMEモード(HTA社製)を使用し、バイアル中のヘッドスペース部分の揮発性成分を測定対象とした。MSのイオン源にはEI/PI共用イオン源を使用し、イオン化法はEI法および、ソフトイオン化法としてPI法を用いた。なお、今回の測定では、EI法はn=1, PI法はn=1で測定した。データは、GC-QMS専用統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQ (日本電子製) を用いて各データのトータルイオンカレントクロマトグラム(TICC)強度を比較し、大根おろしに特徴的な成分について定性した。その他の詳細条件はTable 1に示す。

JMS-Q1600GC UltraQuadTM SQ-Zeta

HT2850T

Table 1 Measurement condition

結果と考察

Figure 1にEI法で取得したデータのTICCを示す(青色:大根おろし, 赤色:角切り大根)。大根おろしのデータの方が、高強度のピークを多数検出できていることがわかる。Table2に大根おろしのデータで強く検出された成分の統合解析結果を示す。この結果より、大根おろしにおいてイソチアネート類(-N=C=S)や含硫黄物質が多く検出されていることがわかった。この中でもID: 020のマススペクトルをFigure 2に、分子イオンの同位体パターンマッチング(実測値と理論値の比較)結果をFigure 3に示す。本成分は統合解析結果から「trans-Raphasatin」と同定され、それを支持する分子イオンがEI, PIどちらのマススペクトルからも得られた。硫黄を含む化合物の同位体パターンにおいては[M+2]の相対強度が高くなるが、今回の測定結果でも同様の傾向が見られていた。更に同位体パターン解析を実施したところスコア0.99とほぼ理論値(スコア1)と同じ良好な値が得られた。 大根の辛み成分は主にイソチアネート類由来といわれている。また、大根のイソチアネート類はすりおろすことで細胞が破壊されて生成することが知られており、今回の大根おろしで検出された成分は上記を支持する結果となった。以上の結果より、msFineAnalysis iQの比較分析機能により大根おろしに特徴的な成分を容易に抽出、定性することが可能であった。

 

Figure 1  Total ion current chromatograms of EI

 

Table 2 Characteristic compounds in Daikon Oroshi (Grated Daikon Radish)

 

Figure 2  Mass spectra of ID 020

Figure 3 Isotope pattern matching results for ID 020 molecular ion

まとめ

本報告では、msFineAnalysis iQの差異分析機能を用いた「大根おろし」と「角切り大根」のデータ(各n=1)を比較した結果について紹介した。本機能により、大根おろしに特徴的な成分を抽出することができ、大根をすりおろしたことで生じる化合物について考察することもできた。msFineAnalysis iQを用いることで、GC-QMSを用いた定性解析の定性確度向上や効率的な解析作業が期待される。

分野別ソリューション

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