JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alphaを用いた電界脱離イオン化 (FD) 法によるペプチド測定
MSTips No.445
はじめに
電界脱離イオン化 (Field Desorption ionization: FD) 法は、試料を塗布したエミッターと高電圧を印加した電極の間で生じる高電界におけるトンネル効果を利用したイオン化法である。イオン化の際に試料に与える内部エネルギーが少なくフラグメンテーションが起こりにくいことから、分子量情報のみを与えるソフトなイオン化法として知られる。また、測定の際は試料を塗布したエミッターを専用のプローブに取り付け、質量分析計のイオン源に直接導入するためGCを介す必要がない。そのため、GC-MSでは測定が困難な難揮発性化合物、極性化合物、熱不安定性化合物等についても測定が可能である。
FD法は飛行時間質量分析計 (TOFMS) と組み合わせることで、測定した化合物の分子式まで算出することができる。ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-AlphaにおけるFD法の概要やサンプリング手法についてはMSTips No. 355 やMSTips No. 403に記載があるので参照されたい。 本MSTipsでは高極性化合物分析事例として、ペプチドであるアンジオテンシンIをJMS-T2000GCのFD法で分析した結果を報告する。
実験
試料には市販のアンジオテンシン I (ヒト) 酢酸塩 水和物 を使用した (Figure 1) 。アンジオテンシンIは、0.1% TCA水溶液: メタノール=1:1 混合溶液を用いて10 mg/mLとなるよう調製した。その後、本試料と1 mg/mLフタロシアニン銅(II) (α-型) メタノール溶液 (質量ドリフト補正物質として使用) を1 µLずつエミッターに塗布し、測定に供した。測定には、ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計 JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alphaを使用した。イオン源はEI/FI/FD共用イオン源を使用し、イオン化法はFD法を用いた。その他の詳細な測定条件をTable 1に示す。
Figure 1 Structural formula of Angiotensin I
Table 1 Measurement conditions
結果
Figure 2に今回取得したデータのTICCを示す。ピークが2つ検出されていたが、左のピークはアンジオテンシンI由来であり、右のピークはフタロシアニン銅由来のピークであることがわかった。アンジオテンシンI由来のピークから作成したマススペクトルを次項のFigure 3に示す。
Figure 2 Total Ion Current Chromatogram
マススペクトルを見ると、アンジオテンシンI の1価, 2価, 3価のプロトン付加分子が確認された (Figure 3) 。これらイオンの精密質量解析結果をTable 2に示す。質量誤差は-1.5 mDa以内と算出され良好な精度で精密質量が得られていた。さらに、 [M+H]+ の同位体パターンはシミュレーション結果とおおむね同様であり (Figure 4) 、良好な測定結果が得られていた。
ペプチドはGC-MSで測定することは困難だが、FD法であれば分子量情報を含むイオン(今回はプロトン付加分子)を観測でき、さらに組成式まで容易に算出できることが示された。
Figure 3 Mass Spectrum of Angiotensin I
Table 2 Elemental Composition Estimated Result
Figure 4 Isotope Pattern Simulation Result of [M+H]+
結論
本MSTipsでは、高極性化合物分析事例として、ペプチドであるアンジオテンシンIをJMS-T2000GCのFD法で分析した結果を報告した。分析した結果、分子量に関連するプロトン付加分子を観測することができ、さらに良好な精度で精密質量が得られることを確認できた。以上の結果より、GC-MSでは測定が困難な高極性化合物についてもFD法にて分析できることが示された。