水素キャリアガスを使用したフェノール類、ハロ酢酸類およびホルムアルデヒドの同一カラム分析
MSTips No. 451
1.はじめに

ガスクロマトグラフ質量分析計
JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
GCのキャリアガスとして広く使われているヘリウム(He)は、様々な事情により、一時的な価格の上昇やその供給状態の不安定化等の問題を抱えることがあり、供給の遅滞等が発生した場合には代替ガスとして別種のキャリアガスの使用検討が必要になる。代替ガスとして主に水素と窒素が検討されており、特に水素は最適な分離を行える線速度域が広く、GCのキャリアガスとして適している。今回、水道水質検査における水質基準項目のフェノール類、ハロ酢酸類(クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸)、ホルムアルデヒドを水素キャリアガスでMSTips No.325と同様に同一カラムで測定した。結果、検量線の直線性と定量下限における再現性について全ての化合物で良好な結果が得られたので本報において紹介する。
1.1測定条件
測定はガスクロマトグラフ四重極質量分析計「JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta」を用いた。測定条件をTable 1に示す。前述の通り、使用するカラムは同一で、GC条件を変更することで各化合物の測定に対応した。尚、MSのSIM取り込みにおける各分析対象成分のモニターイオンは、「水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法 (→以後、告示法) 」記載の値を使用した。
Table 1. Measurement Condition of Each Compound
2.フェノール類
2.1測定方法
告示法、別表第29に従い、精製水500 ml に濃度が0.05, 0.1, 0.5, 1 µg/Lとなるように標準品を添加し、固相抽出により100 倍に濃縮し、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)による誘導体化処理後、GC/MSで測定した。
2.2測定結果
フェノール類は、フェノール、2-クロロフェノール、4-クロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノールの6種類が対象となり、各成分をフェノールの量に換算した合算値として5 µg/Lが基準値となる。基準値の1/10以下である0.05 µg/LのSIMクロマトグラムをFigure 1に示した。
Figure 1. SIM chromatograms of each phenol at 0.05 µg/L
フェノール類は合算値としての処理になるため、個々の成分については0.5 µg/Lを下回る濃度での検出能力が望まれる。各フェノール類の検量線と0.05 µg/Lの試料をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数の値を、 Figure 2とTable 2にそれぞれ示した。検量線の直線性については、全てのフェノール類について決定係数が0.999以上であり、定量下限濃度である0.05 µg/Lにおける定量値の変動係数も1 %以下と良好な結果が得られた。
Figure 2. Calibration curve of each phenol
Table 2. Coefficient variation of each phenol at 0.05 µg/L
3.ハロ酢酸類
3.1測定方法
告示法、別表第17に従い、精製水50 ml に濃度が2, 4, 8, 20, 40 µg/Lとなるように標準品を添加し、溶媒抽出により10 倍に濃縮し、ジアゾメタン溶液による誘導体化処理後、 GC/MSで測定した。
3.2測定結果
ハロ酢酸類の基準値は、クロロ酢酸が20 µg/L、ジクロロ酢酸とトリクロロ酢酸は30 µg/Lである。基準値の1/10以下の濃度である2 µg/LのSIMクロマトグラムをFigure 3に示した。
Figure 3. SIM chromatograms of each haloacetic acid at 2 µg/L
各ハロ酢酸類の検量線と2 µg/Lの試料をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数の値を、 Figure 4とTable 3にそれぞれ示した。検量線の直線性については、決定係数が0.999以上であり、定量下限以下の2 µg/Lにおける定量値の変動係数も1 %以下と良好な結果が得られた。
Figure 4. Calibration curve of each haloacetic acid
Table 3. Coefficient variation of each haloacetic acid at 2 µg/L
4.ホルムアルデヒド
4.1測定方法
告示法、別表第19に従い、精製水50 mlに濃度が6, 12, 24, 120 µg/Lとなるように標準品を添加し、ペンタフルオロベンジルヒドロキシルアミン(PFBOA)溶液により誘導体化し、溶媒抽出により10 倍に濃縮後、GC/MSで測定した。
4.2測定結果
ホルムアルデヒドは、80 µg/Lが基準値である。基準値の1/10以下の濃度である6 µg/LのSIMクロマトグラムをFigure 5に示した。また、ホルムアルデヒドの検量線と6 µg/Lの試料をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数の値を、 Figure 6とTable 4にそれぞれ示した。検量線の直線性については、決定係数が0.999以上であり、定量下限以下の6 µg/Lにおける定量値の変動係数も1 %以下と良好な結果が得られた。
Figure 5. SIM chromatograms of each formaldehyde at 6 µg/L
Figure 6. Calibration curve of formaldehyde
Table 4. Coefficient variation of each formaldehyde at 6 µg/L
5.まとめ
フェノール類、ハロ酢酸類、ホルムアルデヒドについて、水素キャリアガスにおける同一カラムでの測定を検討した。検量線の直線性と目標値の1/10以下の濃度における再現性の結果は良好であり、水素キャリアガスにおける同一カラムによる測定は十分に可能であることを確認した。