JMS-T2000GCのGC-EI/FI法、ブランクチューブ-FI法、FD法を用いた原油の多角的な分析
MSTips No. 452
はじめに
JMS-T2000GCではEI/FI/FD*共用イオン源を使用することで、真空解除することなくイオン化法を切り替えることが可能である。本MSTipsではこれらのイオン化法の特徴を生かした原油分析について紹介する。Figure1に実験に使用した4つの分析法の模式図を、Table1にその特徴を示す。①GC-EI法と②GC-FI法ではサンプルをGC注入口に導入し、GCカラムで分離した後、ハードイオン化のEIとソフトイオン化のFIで測定する。2つの測定データはmsFineAnalysis AIにより統合解析することが可能である。③ブランクチューブ-FI法ではサンプルをGC注入口に導入し、ブランクチューブを通過させた後、ソフトイオン化のFIで測定する。④FD法ではサンプルをエミッターに直接塗布し、ソフトイオン化のFDで測定する。これらソフトイオン化で得られたマススペクトルはmsRepeatFinderにより容易に解析可能である。
*EI:Electron Ionization、FI:Field Ionization、FD:Field Desorption
Figure 1 Measurement method for crude oil in JMS-T2000GC
Table 1 Characteristics of each measurement method
実験
サンプルにはNISTが提供する標準物質SRM2779を用いた。GC-EI法およびGC-FI法のGC条件はASTM Internationalが提供する標準試験法D6730を参考にした。この試験法では2つのカラムを直列に接続することで高分離のクロマトグラムを得ることが可能である。カラムにはRestek corporation製のRtx-5とRtx-DHAを用いた。Table 2に各装置の測定条件を示す。
Table 2 Measurement conditions
結果
Figure 2にGC-EI法およびGC-FI法のTICクロマトグラムを示す。炭素数C5~C32の直鎖アルカンを含む大量のピークが検出された。
Figure 2 TIC chromatograms of GC-EI and GC-FI
Figure 3にmsFineAnalysis AIによるGC-EI法およびGC-FI法の統合解析結果を示す。クロマトグラムはHeptadecane(C17H36)~Eicosane(C20H42)の溶出時間付近を拡大している。主要成分はCとHのみの単純な炭化水素であったが、微量成分として硫黄化合物のアルキル化ジベンゾチオフェンが検出された。この成分はNISTライブラリー未登録物質であったが、AI構造解析により構造式を取得できた。
Figure 3 Result of integrated analysis using msFineAnalysis AI
Figure 4にブランクチューブ-FI法とFD法のTICクロマトグラムおよびマススペクトルを示す。いずれも1分以内と短時間の測定で、分子量分布の確認が可能である。ブランクチューブ-FIは低~高質量まで広範囲の成分を測定可能である。FDはより高質量成分まで測定可能であるが、エミッタープローブをイオン源に導入する際の揮発により低質量成分が欠落する。このためサンプルや目的に合わせて分析法を選択する必要がある。
Figure 4 TIC chromatograms and mass spectra of Blank tube-FI and FD
Figure 5にmsRepeatFinderで作成したFD法のKMDプロットおよびグループデータを示す。KMDプロットを使うことで主成分である炭化水素の不飽和度や重合度の分布などの特徴を容易に評価できる。同様の解析はブランクチューブ-FIでも可能である。
Figure 5 KMD plot and group data of FD
結論
原油は複雑な混合物であり、一つの分析法で全ての情報を得ることは難しい。JMS-T2000GCはイオン化法を切り替えることで多角的な分析が可能である。ブランクチューブ-FI法やFD法では主成分である炭化水素の特徴評価が容易である。GC-EI法とGC-FI法では微量成分の定性分析が容易である。さらにmsFineAnalysis AIを用いることで未知物質の構造解析も可能である。