サーマルデソープション-GC-TOFMSによる木材中のテルペン類分析
MSTips No. 459
はじめに
テルペンはイソプレン単位 (C5) からなる有機化合物である。イソプレン単位数によってモノテルペン (C10)、セスキテルペン (C15)、ジテルペン (C20) などと呼ばれる。カルボニル基やヒドロキシル基などの官能基を持つ誘導体はテルペノイドと呼ばれ、その一部には誘導過程の付加や脱離により炭素数が5の倍数でないものも存在する。これらテルペン類は非常に多くの種類が存在し、その用途も工業製品の原料、食料品、化粧品、医薬品など多岐にわたる。またテルペンは植物の香り成分としても知られており、特に針葉樹中に多く存在する。本MSTipsではスギとヒノキの木材中のテルペン類をサーマルデソープション (TD)-GC-TOFMSを用いて分析したので紹介する。
実験
サンプルには市販のスギとヒノキの乾燥木材を用いた。それぞれ30 mgをTDサンプルチューブに封入して120°Cで1時間加熱し、揮発成分を抽出した。Table 1にTD-GC-MSの測定条件を示す。
Table 1 Measurement conditions
TD conditions | |
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Thermal Desorption | TD-100xr (Markes International Ltd) |
Sample tube type | Empty |
Tube desorption | 120°C (60 min), 20 mL/min, Splitless |
Focusing trap type | General purpose Hydrophobic (T2) |
Trap cooling | 0°C |
Trap desorption | 280° (2 min), 100 mL/min, Split50:1 |
GC conditions | |
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Gas Chromatograph | 8890 GC (Agilent Technologies) |
Column | ZB-5MSi (Phenomenex) 30 m x 0.25 mm, 0.25 μm |
Oven Temperature | 40℃(2min)-10℃/min -300℃(10min) |
Carrier flow | He, 2.0mL/min |
MS conditions | |
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Spectrometer | JMS-T2000GC (JEOL Ltd.) |
Ion source | EI/FI combination |
Ionization | EI (70 eV), FI |
Ion source temperature | 250°C (EI) |
Mass range | m/z 10-800 |
測定結果
Figure 1にスギとヒノキのTICクロマトグラムを示す。スギからはセスキテルペン類とジテルペン類が同程度検出され、ヒノキからは主としてセスキテルペン類が検出された。
Figure 1 TIC chromatograms
Figure 2にmsFineAnalysis AIの差異分析結果を示す (12:00-17:00を拡大)。ID017-19はいずれも組成式 C15H26O のセスキテルペノイドであるが、ID017 エピ-クベノールはスギから強く検出、ID018 τ-ムウロロールは両者で同程度検出、ID019 α-カジノールはヒノキから強く検出された。これらの成分は構造が類似していることからマススペクトルも類似しているが、msFineAnalysis AIではリテンションインデックス (RI) 解析によりこれらを正しく選択することが可能である。
Figure 2 Difference analysis result using msFineAnalysis AI
Table2にピークリストを示す。32成分中2成分 (ID021, ID025) はNISTライブラリー未登録物質であったが、AI構造解析により構造式を導出することができた。
Table 2 Peak list of msFineAnalysis AI
(blue : Strong in Cedar, red : Strong in Cypress, White : Same intensity)
Figure 3にID025の構造解析結果を示す。テルペノイドのひとつクロバンジオールジアセタートを上位候補 (6位/643候補) として導出することができた。
Figure 3 AI structure analysis result of peak ID025
まとめ
TD-GC-TOFMSとmsFineAnalysis AIにより木材中のテルペン類の分析を行った。テルペン類の分析は複雑であるが、msFineAnalysis AIの差異分析、リテンションインデックス解析、AI構造解析により良好な結果を得ることができた。