JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus 3.0"および"msRepeatFinder"を用いた EO-POコポリマーのEO/PO組成比率分析
MSTips No. 471
エチレンオキシド-プロピレンオキシド(EO-PO)コポリマーは、親水性のEOと疎水性のPOを組み合わせた共重合型の非イオン性界面活性剤 (ノニオン性界面活性剤) のひとつである。潤滑剤、消泡剤、乳化剤、可溶化剤、洗剤、帯電防止剤などの用途で様々な分野で使用されている。EO-POコポリマーの物性は、ランダム共重合やブロック共重合といったEO/POの配列順序、付加モル数などでコントロールされている。
さて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化 (MALDI) は代表的なソフトイオン化の1つであり、ポリマー由来のイオンが主に1価イオンで生成するために、マススペクトル上のm/zはポリマーイオンの質量となる。高質量分解能飛行時間質量分析計 (TOFMS) を使用すれば、繰り返し単位や末端基の組成の違いによるポリマーシリーズの識別が容易に可能となり、またそれぞれの分子量分布を算出することができる。最近ではケンドリックマスディフェクト (KMD) 法を用いることで、複雑な高質量分解能マススペクトルに含まれるポリマーシリーズを容易に可視化することができるようになった。MSTips No. 423では、EO-POランダムコポリマー、ブロックコポリマーの構造解析をMALDI-TOFMS、溶液核磁気共鳴装置で相補的に行った。その結果, EOとPOの組成比はMALDI-TOFMSとNMRの定量分析を比較しても同様の値が得られることが分かった。本報告では、MALDI-TOFMSを用いて、6種類の異なる分子量分布、EO/PO組成をもつEO-POコポリマーのEO/PO組成比率を調べた。
実験
サンプルには、Table1に示す市販の6種類のEO-POコポリマー (末端基はすべてH/OH) を用いた。マトリックスにはDCTBを、カチオン化剤にはトリフルオロ酢酸ナトリウム (NaTFA) を用いた。マススペクトルはJMS-S3000 "SpiralTOF™-plus3.0"の SpiralTOF 正イオンモードを用いて取得した。 それぞれのマススペクトルは、デアイソトープ処理を行い、msRepeatFinder V7を使用してKMD解析をおこなった。
Table 1 Information of the six EO-PO copolymers
# | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
---|---|---|---|---|---|---|
Average weight (Mn) | 1100 | 1900 | 2000 | 2000 | 2700 | 2500 |
EO wt% | 10.0 | 50.0 | 10.0 | 50.0 | 40.0 | NA |
結果
Figure 1に6種類のEO-POのマススペクトルを示す。マススペクトルから分子量分布を確認することは容易である。しかしマススペクトルは非常に複雑であり、EOとPOの組成を把握することは困難である。そこでFigure 2にデアイソトープ後のピークリストをKMDプロット (Base unit PO) で表示した。

Figure 1 Mass spectra of six EO-PO copolymers.
このKMDプロットでは、POの分布は横軸と水平方向に、EOの分布は右斜め上方向に展開される。横軸は整数KM (NKM) であり、ほぼ分子量を示している。また、右上方への傾きが大きくなるほど、EO比率が大きくなることを示している。そのため、6種類のEO-POコポリマーのKMDプロットを比較すると、分子量分布とEO/POの組成比率の違いを容易に識別できることがわかる。

1: Mn 1100, EO 10%, 2: Mn 1900, EO 50%, 3: Mn 2000, EO 10%,
4: Mn 2000, EO 50%, 5: Mn 2700, EO 40%, 6: Mn 2500, EO 75%
Figure 2 KMD plots (Base unit PO) of the six EO-PO copolymers after deisotoping the peak lists.
最後に、本EO-POコポリマーの末端基はすべてH/OHであることから、モノアイソトピックピークの精密質量を用いて、msRepeatFinderにて重合度プロット (DP plot) を作成した。重合度プロットからはEO/POの比率を算出が可能である (Table 2)。その結果、サンプル1~5においては、カタログ値のEO重量比率とMALDI-TOFMSから得られたEO重量比率は良い一致を示した。サンプル6についてはカタログ値はないものの、既報[1]のNMR定量値との一致度や今回のサンプル1~5のカタログ値との一致度を考慮しても、同様の信頼性はあるものと考えられる。
Table 2 Comparison of the EO weight ratios of the six EO-PO copolymers between the values in specification sheets and the values calculated from DP plots.
# | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
---|---|---|---|---|---|---|
EO wt% (Specification sheet) |
10.0 | 50.0 | 10.0 | 50.0 | 40.0 | --- |
MALDI-TOFMS result | 12.7 | 49.3 | 12.2 | 49.2 | 40.0 | 74.4 |
まとめ
MALDI-TOFMSは、前処理を含めてもマススペクトルを迅速に測定できる手法である。また近年、合成高分子の高分解能TOFMSのデータ解析を容易にするKMD解析ソフトウェアmsRepaetFinderにより解析面も効率よく実施することができる。本報告ではこれらの利点から、EO-POコポリマーの特徴を示す重要な要素の1つであるEO重量比率の算出を行った。
参考文献
[1] MSTips 423 「高分解能MALDI-TOFMSとNMRを用いたEO-POコポリマーの構造解析」
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