GC-TOFMSによる液系-LIBの電解質用低粘度溶媒に含まれる不純物分析
MSTips No. 473
はじめに
リチウムイオン電池(Lithium Ion Battery, LIB)の電解液は、炭酸エチレン(EC)と様々な低粘度溶媒を混合した液体に、電解質を溶解して作成される。高純度な電解液の作成には高純度な溶媒が必要であり、そのためには溶媒中の不純物の組成をしっかりと把握することが重要となる。
JEOLが開発したソフトウエア、msFineAnalysis AIはEIおよびSIの両方のGC-HRMSデータに対して、解析時間を短縮化でき、かつ化学組成の解析および化学構造の予測を行うことができる。本アプリケーションノートでは、電解液の溶媒として一般的に使用されているDimethyl carbonate(DMC)の不純物成分の定性分析をmsFineAnalysis AIの解析事例として報告する。
実験
サンプルは市販のDMC(≥98%)を使用した。イオン化法はEI法およびSIとしてFI(Field Ionization)法を用い、解析にはmsFineAnalysis AIを用いた。測定における測定条件の詳細をTable 1に示す。
JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alpha
High Performance GC-TOFMS
Table 1. Measurement and analysis conditions
結果及び考察
EIのトータルイオンカレントクロマトグラム(TICC)をFigure 1に示す。カラムブリード由来のシロキサンと主成分であるDMC以外を不純物として、msFineAnalysis AIで解析を実施した。msFineAnalysis AIによる解析対象範囲のEI及びFIのTICCをFigure2に示した。解析対象範囲から8成分の不純物が検出され、殆どの成分(ID[002]~ID[006], ID[008])はNISTデータベースを利用したライブラリ検索によって十分な類似度で化合物名と構造式が得られた。一部、NISTデータベースを利用したライブラリ検索で十分な類似度が得られなかった化合物(ID[001], ID[007])については、msFineAnalysis AIの構造解析により化合物名と構造式を導出することができた。 Figure 3にID[007]のAI構造解析により得られた構造式候補を示す。
Figure 1. TICCs for ionization techniques EI.
Figure 2. TICC for EI and FI methods with extended scope of msFineAnalysis AI analysis (Upper: EI, Lower: FI).
Figure 3. AI Structural analysis results of Peak ID [007].
まとめ
電解液の溶媒として一般的に使用されているDMCの不純物をJMS-T2000GCで測定し、msFineAnalysis AIで解析した結果、不純物として、DMCに類似した化合物であるDiethyl carbonate[003], Isobutylene carbonate[004], Ethylene carbonate[008] が検出された。