マイクロチャンバー及び加熱脱着GC-MSを用いたハンバーガーの香気成分分析
MSTips No.485
1. 概要
マイクロチャンバー/加熱抽出装置は、加熱したチャンバー内に設置した試料の揮発性有機化合物を吸着剤入りのサンプルチューブに通気させて捕集する装置である。試料はチャンバーに直接投入でき、幅広い試料量に設定可能である。また、加熱脱着装置(TD)は、サンプルチューブを加熱し、脱離した気体をGCに導入する前処理装置である。サンプルチューブから脱離した気体は冷却したフォーカシングトラップに捕集され、続いてフォーカシングトラップの高速加熱により脱離させる。この2段階の加熱脱着により高感度な分析が可能となる。これらの手法は、放散ガスや食品の香気成分などを効率的に捕集できるため、プラスチック製品、木製品、繊維製品、食品等の幅広い分野で製品評価に採用されている。(MSTips No.435, 436, 459)
今回、本手法を用いて食品の香気成分を分析した結果、有用性が示されたので報告する。
μ-CTE250
TD-Xr100-
JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
2. 実験
Fig.1にサンプリングの概略図を示す。試料には、市販のハンバーガー7.5 gを用いた。全種類の具材(バンズ, パティ, ソース, ピクルス)が入るようにカットしたハンバーガーをアルミホイルを敷いたマイクロチャンバー(µ-CTE250, MARKES社製)に設置した。チャンバー温度は食事を想定した30 ℃に設定した。測定には、前処理装置として加熱脱着装置(TD-Xr100, MARKES社製)を装着したGC-MS(JMS-Q1600GC, 日本電子製)を使用した。イオン化法はEI法およびソフトイオン化(SI)法として光イオン化(PI)法を用いた。得られたデータの解析は、統合解析1)ソフトウェア(msFineAnalysis iQ, 日本電子製) を用いた。Table 1に測定条件を示す。
Fig.1 Sampling process
Table 1 Measurement Condition
3. 測定結果
3.1 TICCとデコンボリューションピーク
Fig.2にTD-GC-MS測定のTICクロマトグラム(黒色実線)及びデコンボリューションピーク(灰色)を示す。msFineAnalysis iQのデコンボリューション検出機能では、TICC上で確認できない微量成分や、1成分のように見えるピーク中の複数成分を検出することが可能である。本機能により、測定結果から50ピーク(ID:[001]~[050])検出された。主に、食酢(ピクルスやソース)の香気成分であるAcetic acid、牛肉(パティ)の香気成分であるAcetoin、麦芽(バンズ)の香気成分である1-Butanol, 3-methyl-などが検出された。また、柑橘類、ハーブ、スパイスの香気成分である、D-Limonene、Carvone、Eugenolなどが検出された。
Fig.2 TIC chromatogram and Deconvolution peaks
3.3 統合解析結果
Table 2にmsFineAnalysis iQによる統合解析結果を示す。統合解析は、EI測定データのデータベース検索に加え、PI測定による分子イオンの確認やリテンションインデックス(RI)、同位体マッチングなどの同定機能を用いた総合的な解析により高精度な定性結果を提供する。尚、表の背景色は定性結果の確度を表し、青は確度が高い結果を示す。結果より、ハンバーガー由来と推定される複数の香気成分が高確度で確認された。
Table 2 msFineAnalysis iQ results
まとめ
マイクロチャンバー及びTD-GC-MSを用いてハンバーガーの香気成分分析を行った。その結果、ハンバーガー由来の香気成分が複数検出され、本手法による食品香気成分分析の有用性が示された。
参考文献
1) M. Ubukata et al, Rapid Commun Mass Spectrom., 34 (2020). DOI: 10.1002/rcm.8820