msFineAnalysis iQ Ver.2のターゲット分析例①
食品香気成分の迅速分析
MSTips No.486
1. はじめに
ターゲット分析は、GC/EI測定データ及びソフトイオン化(SI)測定データを用いる統合解析1)をベースとした、特定化合物のみを迅速且つ高精度に探索及び判定する手法である。本手法では、事前に探索したい化合物のCAS#、分子式(もしくは分子量)、フラグメント組成式などをターゲットリストに登録する。登録した情報をもとに、GC/EI測定データ及びGC/SI測定データに対して抽出イオンクロマトグラム(EIC)を描画し、ピークを検出する。検出したピークについて、マススペクトル中の分子イオンピーク及びその同位体パターン、NIST データベース検索によるスペクトル類似度やリテンションインデックス(RI)を確認し、これらの総合的な結果をもって目的の化合物であるか否かを判定する。
今回、本手法を用いて、加熱脱着GC-MS法によるハンバーガーの揮発成分の測定結果から、任意の香気成分のみを分析したので報告する。
2. 実験
試料には、市販のハンバーガーを7.5 g用いた。マイクロチャンバー(µ-CTE250, MARKES社製)を用いて揮発成分を抽出し、測定には、前処理装置として加熱脱着装置(TD-Xr100, MARKES社製)を装着したGC-MS(JMS-Q1600GC, 日本電子製)を使用した。イオン化法はEI法およびSI法として光イオン化(PI)法を用いた。得られたデータの解析は、統合解析ソフトウェア(msFineAnalysis iQ Ver.2, 日本電子製)に搭載されたターゲット分析機能を用いた。Table 1に測定条件を示す。(MSTips No.485)

TD-Xr100-JMS-Q1600GC UltraQuadTM SQ-Zeta

EI/PI共用イオン源
Table 1 Measurement Condition

3. 測定結果
3.1 TICC
Fig.1に加熱脱着GC-EI測定のTICクロマトグラムを示す。主に、Acetic acidやAcetoin、1-Butanol, 3-methyl-などのハンバーガー由来と推定される香気成分が検出された。ターゲット分析により、測定結果からハーブ・香辛料由来成分7種類を探索した。Table 2に使用したターゲットリストを示す。
Fig.1 GC/EI TIC chromatogram
Table 2 Target list
3.2 ターゲット分析結果
Fig.2に、ターゲット分析結果を示す。リストに登録された化合物のうち、キャラウェイやバジル、パセリ、コショウなどの香気成分の含有が確認された。(背景色:青)
Fig.2 Target information
3.3 ID:T003のターゲット分析結果の詳細
例として、ID:T003の化合物のターゲット分析結果の詳細を述べる。ターゲットリストに登録した情報(Fig.2)により、EI測定及びPI測定において、T003の分子式(C10H16)からEIC(m/z 136)が描画され、 PI測定におけるEICからRT10.04 minにピークが検出された。(Fig.3 ▼) Fig.4に、本ピークのターゲット判定結果を示す。結果より、スペクトル類似度は757(Max 999)であり、リテンションインデックスの誤差(ΔRI)は-13 [iu]であった。また、PIマススペクトルでは分子イオンピークが確認され、同位体パターンのマッチングスコアは0.94(Max 1.00) と判定項目のいずれにおいても良好な結果であった。以上より、RT10.04 minに検出されたピークがα-Phellandreneであることが確認された。
Fig.3 GC/PI Chromatograms [Upper: TICC, Lower: EIC(m/z 136)]
Fig.4 Result window of Target Analysis
まとめ
ターゲット分析によりハンバーガーの揮発成分から、任意のハーブ・香辛料由来成分を探索した。その結果、探索した成分の含有が確認され、本手法により目的の化合物の迅速且つ高精度な分析が可能であることが示された。
参考文献
1) M. Ubukata et al, Rapid Commun Mass Spectrom., 34 (2020). DOI: 10.1002/rcm.8820