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HS-SPME-GC-QMSによる桃ジュース中香気成分の定性分析

MSTips No.488

はじめに

食品の香気成分は、おいしさに関わる重要な要素として知られており、腐敗臭などのオフフレーバー成分も食品の品質に関わる重要な要素の一つである。これら食品の香気成分の分析には、香気成分の揮発性の高さや多数の成分が複合していることから、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)が多用されている。GC-MSにより香気成分の定性分析を行う際は、アメリカ国立標準技術研究所 (NIST) が提供している電子イオン化 (EI) マススペクトルライブラリーを用いたNISTデータベース (DB) 検索により化合物同定を行うことが一般的である。ただし、DBスペクトルとの類似度のみを指標に定性解析を行うと、化合物によっては複数の有意な候補が得られる場合や、誤った候補が同定結果として選択される場合がある。このような場合、光イオン化 (Photoionization, PI) 法をはじめとするソフトイオン化 (SI) 法による分子イオンの確認が有効となる。弊社では、ガスクロマトグラフ四重極質量分析計(GC-QMS)で測定したEI法, SI法の解析結果を自動で組み合わせる統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQを2021年にリリースした。そして2024年8月に、異臭成分や添加剤などの特定化合物や異性体・構造類縁体を迅速に探索するターゲット分析機能を搭載したmsFineAnalysis iQ Ver.2をリリースした。本ソフトウェアを用いることで、DB検索だけに頼らないより高確度な定性結果を得ることが期待できる。
そこで本MSTipsでは、市販の桃ジュースを対象にGC-QMSとmsFineAnalysis iQを用いた香気成分のノンターゲット分析および、桃に特徴的に含まれる香気成分であるγ-ラクトン類のターゲット分析を実施した結果について報告する。

実験

試料には市販の桃ジュース (ストレート果汁100%) を使用した。桃ジュースは、容量20 mLのバイアルに10 mL封入した。試料の前処理装置としてオートサンプラーHT2850T (HTA社製) のSPMEモードを使用し、バイアルのヘッドスペース部分の揮発性成分を測定対象とした。測定にはGC-QMS (JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta, 日本電子製, Figure 1) を用いた。MSのイオン源にはEI/PI共用イオン源を使用し、イオン化法はEI法および、ソフトイオン化法としてPI法を用いた。測定で得られたデータはGC-QMS専用統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQ (日本電子製) を用いて解析した。その他の詳細条件はTable 1に示す。

 

Figure 1 JMS-Q1600GC with HT2850T autosampler

Table 1 Measurement conditions

結果と考察

香気成分のノンターゲット分析

Figure 2にEI法で取得した際のトータルイオンカレントクロマトグラム (TICC) および、イオン強度上位7成分のアノテーション結果を示す。Ethanol、2-Hexenolといったアルコール類、Ethyl Acetateといったエステル類、FurfuralやBenzaldehydeといったアルデヒド類、2(3H)-Furanone, 5-hexyldihydro-(γ-Decalactone) といったγ-ラクトン類などの香気成分を高強度に検出した。中でもラクトン類は、桃果実の軟化に伴い生成する、桃に特徴的な香気成分であることが知られている1)。そこで、γ-ラクトン類について詳細に解析を行うため、本データをターゲット分析に供した。

Figure 2  Total ion current chromatogram of EI data

γ-ラクトン類のターゲット分析 - 準備

Figure 3に今回の実験で高強度に検出されたγ-ラクトン類γ-DecalactoneのEIマススペクトルおよび構造式を示す。マススペクトルにおいてはm/z 85がベースピークであり、これはγ-Decalactoneにおいてアルキル鎖が脱離して生じるものと推定される。
msFineAnalysis iQにおけるターゲット分析機能は、あらかじめターゲットリストに登録した分子イオン・フラグメントイオン情報やm/z値から化合物を自動で探索する機能である。そこで、今回はm/z 85を持つ成分を対象にターゲット分析を行うこととした (Figure 4)。

Figure 3 EI mass spectrum of γ-Decalactone
(Black: Measured mass spectrum, Red: DB mass spectrum)

Figure 4  Target list

γ-ラクトン類のターゲット分析 - 結果

Figure 5にγ-ラクトン類のターゲット分析結果を示す。今回はm/z 85を持つ成分として4成分が検出された (ID: C001, C002, C003, C004)。ただし、クロマトグラム情報だけでこれらの成分がγ-ラクトン類であると推定することは困難であるため、各成分について統合定性解析も同時に実施した。 一例として、C002の統合定性解析結果をFigure 6に示す。本成分は、NIST DB検索において2(3H)-Furanone, 5-butyldihydro- (γ-Octalactone) とマッチファクターが908, リテンションインデックスの誤差 (ΔRI) が45 [iu]と良好な値を示したため、γ-Octalactonであると推定された。その他の成分も同様に統合定性解析したところ、4成分すべてがγ-ラクトン類であることが確認できた (Figure 5)。C002やC004は微小なピークでありノンターゲット分析で網羅的に解析する際は見落としてしまう可能性があるが、msFineAnalysis iQのターゲット分析機能を活用することで検出することができた。

Figure 5  Target analysis result

Figure 6  Integrated qualitative analysis result of C002

結論

本MSTipsでは、食品中香気成分の解析事例として、GC-QMSとmsFineAnalysis iQを用いた桃ジュース中の香気成分の定性分析結果について報告した。その結果、アルコール類、エステル類、アルデヒド類、γ-ラクトン類などの香気成分を高強度に検出することができた。さらに、桃に特徴的な香気成分であるγ-ラクトン類についてターゲット分析を行った。検出された成分の中には微小なものもあったが、本ソフトウェアでは統合定性解析も自動で実施することができるため、この結果を併用することで最終的に4成分のγ-ラクトン類を確認できた。
以上より、GC-QMSとmsFineAnalysis iQがノンターゲット分析、ターゲット分析のどちらにも有効であることが確認できた。これらが食品中香気成分分析に活用されることが期待される。

参考文献

1) 垣内ら, 日本食品低温保存学会誌. 1991; 17, pp 14.

分野別ソリューション

関連製品

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaガスクロマトグラフ四重極質量分析計

msFineAnalysis iQ統合定性解析ソフトウェア

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