Close Btn

Select Your Regional site

Close

触媒熱分解を用いたアスファルテン生成物の質量分析による評価

MSTips No.497

はじめに

アスファルテンの効率的な触媒アップグレードは、重質油精製の経済的および環境的価値を向上するために不可欠である。アスファルテンは複雑な分子構造と高い芳香族性、そして熱分解によりコークスを形成しやすいという性質が知られている。特にコークス形成の軽減はアスファルテンのアップグレードにおける課題となっている。
触媒熱分解はコークス形成を軽減しながら価値の高い化合物の収率を高めることができる手段として注目されている。また、熱分解-ガスクロマトグラフ-高分解能飛行型質量分析計(PY/GC/HRTOFMS)は熱分解生成物の定性分析に有用なツールである。
本MSTipsでは、触媒としてHZSM-5を用いた場合を例に、触媒が及ぼすアスファルテンの分解生成物への影響をPY/GC/HRTOFMSにより評価した結果について報告する。

実験

触媒熱分解用サンプルはFigure 1に示したとおり、エコカップにアスファルテン約1.5mgを入れた後、石英ウールを挟んでHZSM-5を入れ、その後触媒粉末の飛散防止のため、さらに石英ウールを載せた。アスファルテン : HZSM-5の重量比率は最適化した結果1:1とした。
PY-GC-HRTOFMS条件はTable 1に示したとおりであり、PYモードおよび熱分解炉温度はDirect-EGAモードの測定結果(未掲載)からシングルショットモード650°Cとした。電子イオン化(EI)および電界イオン化(FI)およびmsFineAnalysis AIを用いてAI構造解析を行った。

 

Figure 1. Sample and catalyst in eco-cup

Table 1.  Measurement conditions

 

Figure 1. TICCs of an asphaltene by measuring PY/GC/MS with or without HZSM-5
(Top: EI, Bottom: FI,  Red: PY/GC/MS with HZSM-5, Blue: PY/GC/MS without HZSM-5)

結果および考察

EIおよびFIの全イオン電流クロマトグラム(TICC)をそれぞれFigure 1に示す。アスファルテンのみの熱分解結果は青色で、アスファルテンの触媒熱分解結果は赤色でそれぞれ示し、msFineAnalysis AIを用いて帰属された主要熱分解成分の化学構造とともに示す。アスファルテンの熱分解データでは、鎖状炭化水素であるC4H8~C31H64が帰属された。一方、HZSM-5による触媒熱分解データではベンゼン、トルエン、p-キシレン、ナフタレンなどの芳香族炭化水素が主に帰属され、また 鎖状炭化水素としてはC4H8~C9H20が帰属された。よって、HZSM-5の触媒効果として、鎖状炭化水素の低分子量化、そして炭化水素成分の環化反応の促進の2点が確認された。
また、アスファルテンの熱分解および触媒熱分解において、同じ硫黄含有化合物が確認されたため、HZSM-5の硫黄含有化合物への影響は確認されなかった。定性分析の一例として、Figure 1中にで示すリテンションタイム(RT)17.09分に検出された化合物のEI/FIマススペクトルとmsFineAnalysis AIの定性分析結果をFigure 2とFigure 3にそれぞれ示す。EIとFIにおいて分子イオンおよび、そのアイソトープパターンが検出された。msFineAnalysis AI結果ではAI技術により予測されたマススペクトルとフラグメントイオンパターンが良く一致する候補化合物として4aH-thioxantheneを示したほか、この構造に対してmsFineAnalysis AIが予測したRI値も実測のRI値と許容誤差の範囲で一致した。そのため、 4aH-thioxantheneを RT 17.09分の化合物として帰属した。

 

Figure 2. EI and FI mass spectra of the component at a retention time of 17.09 minutes in asphaltene + HZSM-5.

 

Figure 3. AI Structural Analysis results of the component at a retention time of 17.09 minutes in asphaltene + HZSM-5.

まとめ

本MSTipsではアスファルテンの触媒熱分解における触媒効果を質量分析により評価した。硫黄含有化合物に対するHZSM-5の触媒効果は確認されなかったものの、炭化水素に対する触媒効果として鎖状炭化水素の低分子量化と芳香族化合物の生成促進が確認された。
PY/GC/MSデータの定性分析は成分数が多く、また未知化合物も多いため解析時間は長くなりがちで解析精度を保つことは困難であるが、JMS-T2000GCおよびmsFineAnalysis AIは解析時間の短縮および高い解析精度に寄与する強力な分析ツールとなる。
JMS-T2000GCおよびmsFineAnalysis AIを搭載したPY/GC/MSの活用により、触媒効果の評価に対して時間短縮と高い解析精度の両立が期待される。

分野別ソリューション

関連製品

JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alpha高性能ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計

msFineAnalysis AI Ver.2未知物質構造解析ソフトウェア

閉じるボタン
注意アイコン

あなたは、医療関係者ですか?

いいえ(前の画面に戻る)

これ以降の製品情報ページは、医療関係者を対象としています。
一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承ください。

やさしい科学

主なJEOL製品の仕組みや応用について、
わかりやすく解説しています。

お問い合わせ

日本電子では、お客様に安心して製品をお使い頂くために、
様々なサポート体制でお客様をバックアップしております。お気軽にお問い合わせください。