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逆相LC分取ポリマーの高分解能MALDI-TOFMS 測定とKMD 解析による可視化

MSTips No. 503

複雑なポリマー試料をより詳細に解析するには、マススペクトル測定に先立ち、液体クロマトグラフィー(LC)によって成分を分離することが有効である。エレクトロスプレーイオン化法(ESI)はLCとの接続性に優れており、測定や解析が容易であるという利点があるが、多価イオンが生成されやすく、複雑なポリマー試料ではスペクトルが煩雑になり、解析が困難となる。一方、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)は主に一価イオンを生成するため、ポリマーの定性的解析に適している。LCの逆相モードでは、ポリマーの疎水性の違いに基づいて分離が可能である。したがって、MALDI-TOFMSによる測定の前にLCによる分離を行うことで、複雑なポリマー試料からより多くの有用な情報を得ることができる。本報告では、逆相LCにより分取したポリマー成分を高分解能MALDI-TOFMSで測定し、得られたMALDIスペクトルからKendrick Mass Defect(KMD)プロット上でどのような情報が可視化できるかを検討した。その際、以下の2点に着目して解析を行った。
(1)分取前と分取後におけるKMDプロットの比較 (2)分取間隔の違い(30秒間隔と15秒間隔)がKMDプロットの可視化に与える影響

実験

市販のEO-POコポリマー2種をサンプルとして使用した。試料①はPO-EO-POトリブロックコポリマー(Mn 2700、EO含有率40%)、試料②はEO-POランダムコポリマー(Mn 2500、EO含有率約75%)である。これら2種のコポリマーを等量で混合し、0.2 µLをAgilent 1200 Series LCシステム(Agilent Technologies製)に注入した。移動相溶媒には水/メタノールを用い、逆相モードにて分取を行った。分取後の溶液は、マトリックスとしてCHCA(α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸)、カチオン化剤としてNaTFA(トリフルオロ酢酸ナトリウム)を用いてMALDI-TOFMS測定を実施した。マススペクトルはJMS-S3000(日本電子製)により取得し、得られたスペクトルに対しては同社製ソフトウェアmsRepeatFinderを用いてKendrick Mass Defect(KMD)解析を行った。

JMS-S3000 SpiralTOFTM -plus3.0

 

Table1 Analysis conditions

結果

(1)分取前と分取後におけるKMDプロットの比較

EO-POコポリマーの分取には、移動相として水とメタノールを用いた逆相LCを使用した。Fig.1に示すように、EO比率の高いランダムコポリマー②が5-6分に溶出し、続いてPO比率の高いブロックコポリマー①が6-8分に溶出した。サンプル成分が溶出する保持時間5-8分の間に、30秒間隔で分取(Fr.1-6)を行った。Fig.2には、分取前および30秒間隔で分取したFr.1-6のMALDIマススペクトルを示す。これらのマススペクトルを視覚的に確認するだけでは、どのようなポリマーシリーズが溶出しているかを明確に判断するのは困難である。そこで、分取前および各分取画分のMALDIスペクトルに対して、繰り返し単位44.026 u(C2H4O)を基準としたKMDプロットを作成し、ポリマー成分の可視化を行った(Fig.3)。

Fig.1 逆相LCのクロマトグラム

Fig.2 分取前と分取後サンプルのマススペクトル

Fig.3に示す分取後のKMDプロットは、Fr.1-6を重ね合わせたものである。分取前後のKMDプロットを比較すると、分取前はイオンサプレッションの影響によりKMDの分布が狭くなっていたのに対し、分取後は成分が分離されたことにより、より広いKMD分布が確認された。今回の分離は主に精文館の脂溶性(疎水性)の違いに基づいており、脂溶性が高い成分ほど後に溶出する傾向が見られた。KMDプロットによる可視化により、溶出順序がPO含量の違いと対応していることが明確となり、成分の構造的特徴と分離挙動との関係を視覚的に示すことができた。

Fig.3 KMDプロット[Mr:44.026]の比較 分取前(右), 分取後(左)

(2) 分取間隔の違い(30秒間隔と15秒間隔)がKMDプロットの可視化に与える影響

保持時間5.0-7.5分の間において、30秒間隔および15秒間隔で分取を行った。各フラクションについてMALDIスペクトルを取得し、繰り返し単位44.026 u(C2H4O)を基準としてKMDプロットを作成した(Fig.4)。たとえば、赤点線で示した同一の時間帯においては、15秒間隔で分取した場合の方が、KMD軸方向の分布が広がっていることが確認された。さらに、6.0-6.5分のフラクションにおけるマススペクトルを比較した結果、15秒間隔で分取した方が、成分間の分離がより明瞭であることが示された(Fig.5, 6)。

Fig.4 KMDプロット[Mr:44.026]の比較 30秒間隔(左), 15秒間隔(右)

Fig.5 6.0-6.5分に分取したサンプルのマススペクトル(30秒間隔/15秒間隔)

一方、30秒間隔での分取では成分の分離が不十分であったため、複数の成分が混在し、マススペクトル上でピークの重なりが生じた。その結果、m/z 値に数十mDaの増加が見られた。このm/z 値の増加は、KMD値としては減少として現れる。Fig.7には、m/z 値のズレとKMDプロット上での分布の関係を示す概略図を示した。図に示されるように、POユニット数の違いにより、本来はKMDプロット上で横軸に平行に並ぶはずのポリマーシリーズが近接してしまい、結果としてKMD分布の幅が狭まることが明らかとなった。

Fig.6 Fig.5の拡大表示スペクトル

Fig.7 KMDプロットの概略図(m/z値のズレとプロットの関係)

まとめ

2種類のEO-POコポリマーを逆相LCにより分取し、MALDI-TOFMSで測定後にKMD解析を行った。逆相LCでは脂溶性が高い成分ほど遅れて溶出するため、EO-POコポリマー中のPO含量の違いによる分離がKMDプロットにより明確に可視化された。さらに、分取間隔を15秒に短縮することで、成分の重なりによる数十mDaのm/z 値のズレが抑制され、質量精度が向上し、より詳細な解析が可能となった。これらの結果より、逆相LC、高分解能MALDI-TOFMS、およびKMD解析を組み合わせることで、複雑なポリマー試料の詳細解析に有効であることが示された。

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