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水素キャリアガスを用いたGC/MS/MSによるダイオキシン類分析の検討

MSTips No.507

はじめに

Figure 1 JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQ

ダイオキシン類の分析には、主に二重収束形質量分析計のGC/HRMSが用いられている[1, 2]。一方、EUや中国では食糧および飼料中のダイオキシン類の分析においてGC/MS/MSの使用も認められている[3, 4]。また、アメリカにおいてもGC/MS/MSによる測定方法が検討されている。このような背景から、日本でもGC/HRMS以外のGC/MSまたはGC/MS/MSによるダイオキシン類分析の検討が開始されている。我々もGC/MS/MSによるダイオキシン類分析結果については、MSTips491で報告している[5]。また、近年では水質分析や農薬分析などと同様に、代替キャリアガスによる分析についても検討が開始されている。しかし、その報告数は水質分析や農薬分析に比べ非常に少ない状況である。そこで、本アプリケーションではガスクロマトグラフ三連四重極質量分析計JMS-TQ4000GC (Figure 1)を用いて、水素キャリアガスによるダイオキシン類分析についてヘリウムキャリアガスとの比較検討を行ったので報告する。

測定条件

測定には、ガスクロマトグラフ三連四重極質量分析計JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQを使用した。Table 1に測定条件を示し、Table 2にSelected reaction monitoring (SRM)トランジションを示す。Table 3に検量線用の標準試料濃度(CS1-5)を示す。標準試料は、JIS(Japanese Industrial Standards) Dioxin/Furan Calibration Solution in Nonane(Cambridge Isotope Laboratories, Inc.)を用いた。比較検討では、主に1)マススペクトルの変化、2)クロマトグラムピークの変化、3)S/N及びピーク分離を指標とした最適流速について確認を行った上で、SplitlessモードとPulsed splitlessモードによる測定を実施した。

 

Table 1 Measurement condition

 

Table 2 SRM transition

 

Table 3 Standard sample for calibration curve

結果

水素キャリアガスによるクロマトグラムピークの変化

Figure 2にヘリウムキャリアガスと水素キャリアガスによるSplitlessモードで取得したCS3のT4CDFの平均SRMクロマトグラムピーク(定量イオンと参照イオンのSRMクロマトグラムピークを平均化したSRMクロマトグラムピーク)を示す。標準試料は2378体しか含まれていないが、 水素キャリアガスを用いた際には複数のピークが観測された。この現象は、他の塩素化体においても観測されており、高濃度域で顕著に観測されている。水素キャリアガスにより、高塩素化体が還元され低塩素化体が生成されていることが示唆された。

 

Figure 2 Average SRM chromatogram peaks of T4CDF

水素キャリアガスとヘリウムキャリアガスにおけるS/N値の比較

Table 4に両キャリアガスによるSplitlessモードで取得したCS3の3回繰り返しデータの平均値(Av-S/N値)を示し、Figure 3にその棒グラフを示す。ヘリウムキャリアガスによるAv-S/N値に比べ、水素キャリアガスによるAv-S/N値は平均で0.6倍低下した。

 

Table 4 Av-S/N value by each carrier gas

Figure 3 Comparison of Av-S/N value by each carrier gas

CS1のピーク検出状況

Figure 4に水素キャリアガスとSplitlessモードによって得られたCS1のPCDDs及びPCDFsの平均SRMクロマトグラムピークを示す。良好なピーク形状で全対象成分が検出された。

 

Figure 4 Average SRM chromatogram peaks of PCDDs and PCDFs

Av-RRFのRSDによる比較

Figure 5にAverage-Relative Response Factor(Av-RRF)のRelative Standard Deviation(RSD)を示す。Av-RRFのRSDは、JIS規格に則りCS1-5の測定データを使用して算出した。ヘリウムキャリアガスでは全対象成分が基準値(10%以下)を満たし、水素キャリアガスによるSplitlessモードでは4成分が、Pulsed splitlessモードでは1成分が基準値以上の値を示した。これは、水素キャリアガスによる感度低下及び注入時の還元反応によって、高塩素化体から低塩素化体を生じることが原因と推察される。

 

Figure 5 RSD of Av-RRF

IDLにおける比較

Table 5に各キャリアガスと注入モードによって得られたIDLの値を示す。IDLはJIS規格に則りCS1の5回繰り返し測定データから算出した。ヘリウムキャリアガスによるSplitlessモード及び水素 キャリアガスによるPulsed splitlessモードでは、全対象成分において基準値を満たした。一方で、水素キャリアガスによるSplitlessモードでは1234789-H7CDFのみが基準値以上の値を示した。

 

Table 5 Standard sample for calibration curve

まとめ

JIS K0311とJIS K0312を基準に検証した結果、ヘリウムキャリアガスではAv-RRFのRSD及びIDLは基準値を満たすが、水素キャリアガスでは一部の成分において未達であった。さらに、水素キャリアガスによって高塩素化体が還元され、低塩素化体が生じることが示唆された。Splitlessモードでは、CS1において全対象成分が検出可能であったが、Av-RRFのRSDでは4成分が、IDLでは1234789-H7CDDが基準値以上の値であった。Pulsed splitlessモードでは、Av-RRFのRSDは12346789-O8CDDのみ基準値以上であったが、IDLは全対象成分で基準値以内であった。今後は、水素ガス量を抑えた上で①各異性体のクロマトグラム分離、②還元体生成の減少、③安定性向上について検証を行う予定である。

参考文献

[1] JIS K0311(2020)
[2] JIS K0312(2020)
[3] COMMISSION REGULATION (EU) 2017/644 of 5 April 2017
[4] GB 5009, 205-2024
[5] MSTips 491

分野別ソリューション

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