MALDI-TOFMSと熱分解-GC-TOFMSによる半導体プロセス用フォトレジストの分析
MSTips No. 525
はじめに
半導体微細化の要求に伴い、フォトレジストには高解像性、低Line Width Roughness(LWR)、および高いパターン安定性が求められている。これに対応するため、酸発生剤(PAG: Photo Acid Generator)をポリマー主鎖または側鎖に共有結合で固定化したPAGバウンドコポリマーが注目されている。Figure1にそのモデルサンプルのモノマー構造式を示す。主骨格は現在主流であるArFエキシマレーザー向けのメタクリレートである。光酸発生モノマーではトリフェニルスルホニウム(C18H15S+)の光分解により生成されたプロトンをスルホネート基(-SO3-)が受容してスルホン酸を生成する。脱離モノマーでは酸触媒反応により保護基のエチルシクロペンチル基(-C7H14)が脱離し、ヒドロキシル基が露出することでアルカリ現像液に可溶となる。

Figure 1 フォトレジスト用モデルポリマーのモノマーの構造式
このような高機能性ポリマーの設計および品質保証のためには、モノマーや末端基の組成や構造の詳細な評価が重要となる。本MSTipsではMALDI-TOFMSと熱分解-GC-TOFMSによる分析例を紹介する。MALDI-TOFMSでは高分子量領域まで分子イオンを観測可能である。コポリマーの場合得られるマススペクトルは複雑になるが、msRepeatFinderのケンドリックマスディフェクト(KMD)解析により繰り返し組成を可視化、重合度や末端基組成の情報を効率良く取得可能である。熱分解-GC-MSではモノマーや末端基に由来する部分構造の情報を取得可能である。検出される熱分解物の中にはNISTライブラリー未登録成分も多いが、msFineAnalysis AIのAI構造解析により、これら成分の自動構造解析が可能である。
実験
MALDI-TOFMSの測定条件をTable 1に、Py-GC-TOFMSの測定条件をTable 2に示す。
Table 1 MALDI-TOFMSの分析条件

Table 2 熱分解-GC-TOFMSの分析条件

MALDI-TOFMSの結果
Figure 2にモデルサンプルのマススペクトルを示す。各モノマーに由来する繰り返し単位がピーク間の質量差として観測された。光酸発生モノマーについては538u差 (C26H25F3O5S2)に加え、 PAG成分が脱離してNaに置換した298u差 (C8H10F3O5SNa) が観測された。さらに脱離モノマーの182u差 (C11H18O2) と密着モノマーの170u差 (C8H10O4) が観測され、マススペクトルは4元系コポリマー様の複雑なものとなった。

Figure 2 PAGバウンドコポリマーのマススペクトル
Figure 3にKMDプロット(Base unit C11H18O2)を示す。サークルはマススペクトル中のイオンピークに対応しており、サイズはイオン強度、色は末端基の違いを表している。また4本の矢印は各繰り返し単位が1つ増えた場合のKMDプロット内のシフトする方向を示しており、括弧内の数字はシリーズAの光酸発生/脱離/密着の各モノマーの重合度を示している。この様にKMDプロットは繰り返し単位によるつながりを可視化し、末端基の異なるシリーズを分類することで、ポリマー全体の組成を容易に把握することが可能であった。

Figure 3 PAGバウンドコポリマーのKMDプロット
熱分解-GC-TOFMSの結果
Figure 4にTICクロマトグラムおよび主要ピークの定性結果(構造式)を示す。光酸発生/脱離/密着の各モノマーの部分構造に由来する熱分解物を定性することができた。ピークID027の密着モノマーはNISTライブラリー未登録であったが、AI構造解析により構造式を導出することができた。

Figure 4 PAGバウンドコポリマーのTICクロマトグラム
Figure 5にピークID027のAI構造解析結果の候補リストを示す。正解の構造式をAIスコア831、1293候補中9位として導出することができた。

Figure 5 ピークID027のAI構造解析結果の候補リスト
まとめ
MALDI-TOFMSと熱分解-GC-TOFMSによりモデルポリマーの分析を行った。前者からは繰り返し組成や末端基組成を含むポリマー全体の組成を容易に把握することが可能であり、後者からはその部分構造の情報が得られ、組み合わせることでより詳細な定性情報の取得が可能であった。
謝辞
PAGバウンドコポリマーのモデルサンプルを提供いただいた東洋合成工業株式会社に深く感謝いたします。
