質量分析による屋内用ラインテープの斜光劣化評価アプリケーション① ーダイレクトEGA-MS法によるテープ基材と接着剤の定性解析ー
MSTips No. 530
1. はじめに
屋内用ラインテープは、工場や倉庫、公共施設などにおいて通路区分や安全表示を目的として広く使用されている。しかしながら、屋内環境であっても照明や外光の影響を受けることにより、長期間使用後に外観変化や性能低下が生じる場合がある。
本検討では、屋内環境において約8か月間使用された屋内用ラインテープにおいて、斜光の影響により着色層の色が消滅する劣化現象が確認された事例を対象とし、その劣化要因を明らかにすることを目的として斜光劣化の評価を行った。
評価にあたっては、まず初めにダイレクトEGA-MS(Evolved Gas Analysis–Mass Spectrometry)法を用いて、テープを構成する基材層および粘着層に関する定性解析を実施した。本手法により、各構成層からの熱分解生成物を直接検出することで、材料組成に関する把握を試みた。
2. 実験
試料には、図1に示す使用前の屋内用ラインテープ(オレンジ)を用いた。
測定には、熱分解装置であるマルチショットパイロライザー(EGA/PY-3030D、フロンティア・ラボ株式会社製)を、GC-QMS(JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta、日本電子株式会社製)に接続した分析システムを使用した。
試料は加熱炉内において、50 ℃から650 ℃までを昇温速度20 ℃/minで加熱した。加熱により発生したガス成分は、GCオーブン内に設置されたフューズドシリカ製キャピラリーブランクチューブ(長さ2.5 m、内径0.25 mm)に、スプリット比50:1の条件で導入した。クロマトグラフ分離は行わず、発生ガスを直接質量分析計により検出した。
なお、EGA-MS測定における詳細な測定条件を表1に示す。
図1 サンプル画像
JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
表1 測定条件
3. 結果と考察
ダイレクト‐EGAMS測定によるTICCの結果を、図2に示した。
TICCの横軸のスケールには、保持時間と共に試料の加熱温度も示している。
加熱温度約320℃から約410℃の範囲において、約390℃をピークトップとする第2段階、ならびに約410℃から約500℃の範囲において約450℃をピークトップとする第3段階の各温度領域において、主として2種類の熱分解生成物に起因したプロファイルが確認された。

図2 屋内用ラインテープのトータルイオンカレントクロマトグラム(TICC)
3.1. 第2段階の定性解析結果
図3に、第2段階に対応する平均マススペクトルを用いてF‑searchによる定性解析を行った結果を示した。
解析の結果、天然ゴムおよびイソプレンゴムが高いQuel値を示して検出された。イソプレンゴムは、天然ゴムと同様の繰返し構造を有する合成ゴムであり、接着剤の基材として用いられることが知られている。これらのことから、第2段階で観測された熱分解生成物は、テープ中の粘着層に起因する可能性が高いと考えられる。

図3 第2段階 熱分解生成物の積算マススペクトルに基づくF-searchの解析結果
3.2.第3段階の定性解析結果
次に、図4に、第3段階に対応する平均マススペクトルを用いたF‑searchによる定性解析結果を示した。
解析の結果、ポリプロピレンが高いQuel値を示して検出された。ポリプロピレンは、オレフィン系フィルムとも称され、機械的強度、耐熱性および成形加工性に優れることから、包装材、フィルム、繊維、不織布など幅広い用途に使用されており、テープにおいても基材として一般に用いられる材料である。これらのことから、第3段階で観測された熱分解生成物は、テープ中の基材層に起因する成分である可能性が高いと考えられる。

図4 第3段階 熱分解生成物の積算マススペクトルに基づくF-searchの解析結果
図5.サンプルの断面図
本テープは、図5に示す断面写真から分かるように、主として三層構造を有している。
最上層のオレンジ色で示される部分は着色層であり、その下に基材層、最下層に粘着層が配置されている。
ダイレクトEGA‑MS法による定性分析の結果から、本屋内用ラインテープの基材層には、ポリプロピレンを主成分とするオレフィン系フィルムが使用されていると推定される。また、粘着層には合成ゴム系材料が用いられている可能性が高い。
4. 結論
本分析により、ダイレクトEGA‑MS法が屋内用ラインテープの組成推定に有効であることが確認され、材料構成を明瞭に把握することができた。
次報では、着色層の組成推定に焦点を当て、その詳細を報告する。
