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msFineAnalysis IQ Ver.3~AI構造解析例②~
Py-GC-QMSによるポリエチレンテレフタレート熱分解生成物解析

MSTips No. 537

はじめに

ポリエチレンテレフタレート (PET) は、優れた機械特性、耐熱性、透明性を有することから、飲料用ボトル、食品包装材、繊維材料など幅広い分野で利用されている代表的な熱可塑性ポリエステルである。近年では、環境負荷低減の観点からリサイクル材の利用拡大や循環型利用が進められており、材料中に含まれる物質の把握や劣化挙動の評価がますます重要となっている。
弊社では2021年、ガスクロマトグラフ四重極質量計(GC-QMS)測定データに対応した自動統合解析ソフトウェア msFineAnalysis iQ をリリースした。本ソフトウェアは、電子イオン化(EI)法によるデータベース(DB)検索と、ソフトイオン化(SI)法による分子イオン情報を統合的に評価することで、従来より信頼性の高い定性解析を可能としてきた。一方で、本解析はNIST DB検索に基づく手法であるため、DB未登録成分については、構造の推定が困難であった。
そこで今回、GC-QMS向け統合定性解析ソフトウェア「msFineAnalysis IQ Ver.3」を新たに開発した。本バージョンでは、従来のEI法とSI法を組み合わせた統合解析に加え、深層学習を用いたAI構造解析機能を搭載している。これにより、NIST DB未登録成分に対しても推定構造の提示が可能となり、未知物質解析をより効率的に支援する。(MSTips No.535
さらに、新開発のEI/CI(化学イオン化)共用イオン源を用いることで、従来必要であった真空解除を伴うイオン源交換が不要となり、EI法およびCI法の測定データを連続的に取得可能となった。本検討では、CI法により得られる分子質量関連イオンを基に、msFineAnalysis IQ Ver.3に搭載されたAI構造解析機能を用い、PET樹脂の熱分解生成物を解析した結果を報告する。

実験

本測定では、市販のPETフィルムを用いた。測定にはGC‑QMS(JMS‑Q1600GC UltraQuad™ 2.0,日本電子製)を使用した。試料の前処理装置として熱分解装置(EGA/PY‑3030D,フロンティアラボ社製)を用い、熱分解GC‑MS法により測定を行った。イオン源には EI/CI 共用イオン源を使用し、イオン化法として電子イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法を用いた。測定で得られたデータは、GC‑QMS用統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis IQ Ver. 3(日本電子製)を用いて解析した。その他の測定条件の詳細は表1に示す。

 

JMS-Q1600GC UltraQuad™ 2.0

1 測定条件

AI構造解析結果と参考文献の比較

図1にトータルイオンカレントクロマトグラム (TICC)を示す(上段:EI法、下段:CI法)。観測されたPET樹脂熱分解生成物のうち、NIST DBに未登録で、かつ参考文献[1]で構造式が提案されている4成分(ピークA、ピークB、ピークC、ピークD)を対象としてAI構造解析を実施し、その推定構造の妥当性を評価した。

 

1 PET熱分解生成物のPy-GC/EIおよびCI TICクロマトグラム

 

図2にピークA、B、C、DのEI法およびCI法のマススペクトルを示す。いずれの成分においても、EI法では分子イオンは観測されなかったのに対し、CI法ではプロトン付加分子 ([M+H]+) が観測され、分子量に関する情報が得られた。 msFineAnalysis IQでは、付加・脱離イオンをIM(分子イオンに関連するイオン)として設定することで、付加脱離を考慮した構造解析が可能となる。本解析ではそれぞれのピークにおける[M+H]+をIMとして設定し、AI構造解析を実施した。

 

2 ピークABCDの電子イオン化(EI)および化学イオン化(CI)スペクトル

 

図3に、ピークAに対するAI構造解析の解析画面を示す。AI構造解析では、深層学習により予測したEIマススペクトルを収録したAIライブラリを用い、実測EIマススペクトルとのコサイン類似度に基づくスコア(最大999)を算出している。候補構造は、実測データから得られた分子量情報を基に事前に絞り込まれている。図中の“AI Score”はコサイン類似度を、“Rank”はAIスコアに基づく構造式候補の順位を示す。

 

AI構造解析結果の表示画面

3 AI構造解析結果の表示画面

 

図4に、ピークAおよびBにおける実測EIマススペクトルとAIにより予測されたEIマススペクトルの比較を示す。ピークAおよびピークBについては、正しい構造式がAI構造解析結果の候補1位として得られており、ピークDについては正しい構造式が候補7位として得られ、NIST DBに未登録成分であっても正しい構造式を上位候補として得られた。一方、ピークCについては正しい構造式が候補349位として得られた。

 

AI構造解析により推定された構造

4 AI構造解析により推定された構造

結論

本MSTipsでは、AI構造解析手法を搭載した新ソフトウェアmsFineAnalysis IQ Ver. 3と新たに開発したEI/CI共用イオン源を組み合わせた高分子材料への適用例を紹介した。その結果、4成分中3成分については、NIST DB未登録化合物に対しても、AI構造解析により妥当な推定構造式が得られることを示した。本手法は、熱分解生成物解析における構造推定の一手法として有用であることが示唆された。

参考文献

  • Shin Tsuge, Hajime Ohtani, Chuichi Watanabe (2011), Pyrolysis - GC/MS Data Book of Synthetic Polymers, Elsevier

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