NMC粒子のSEM内インデンテーションによる応力測定とその場観察
SM2026-01
はじめに
電池材料研究では、正極材に用いられる NMC 粒子の微細構造やクラック挙動を評価することが求められている。粒子にはロールプレス(Calendering)工程や充放電過程で局所的な応力が加わるため、その機械特性を粒子スケールで把握することが重要である。微細構造を観察できるSEMと、荷重印加時の粒子の力学応答をその場で評価できるin-situナノインデンテーションを組み合わせることで、粒子レベルの機械特性を直接測定できる。本アプリケーションノートでは、NMC811粒子を対象に、SEM内in-situナノインデンテーションによるクラック発生・進展挙動および粒子サイズ依存性を評価した事例を紹介する。

ナノインデンターの外観
実験系
【装置構成】
ナノインデンター試験機: Hysitron PI Envision SEM PicoIndenter(Bruker製)
プローブ: 直径20 µmのフラットエンドダイヤモンド圧子
EBSD: Velocity Ultra(EDAX製)
CP: IB-19540CP(日本電子製)
【試料準備】
NMC粒子の圧縮試験結果
シリコン基板上に散布した任意の NMC 粒子に対し、圧縮速度 20 nm/s で圧縮試験を行った結果を図2および図3に示す。図2(a)~(d)は、圧縮試験開始前から圧縮による破壊に至るまでの SEM 像である。図3は本圧縮試験における荷重–変位曲線であり、図中には各 SEM 像の観察タイミング (a)〜(d) を示している。(b)は最大荷重点に対応しており、赤点線で示すように圧縮粒子内にクラックが発生し、応力が緩和された状態である。(c)では、一度応力が緩和された後も圧子による圧縮が継続され、クラックの進展に伴って再び応力緩和が生じている。クラックは粒界に沿って進展しており、粒界破壊が支配的であることが確認された。その後もクラックの発生および進展が繰り返され、最終的に(d)に示すように NMC 粒子は破壊に至った。また、(a)〜(d) に対応する圧縮試験中の SEM 像を連続的に記録した動画を視聴できるようにした。
NMC粒子のサイズと最大荷重の関係
次に、シリコン基板上に散布した同様のNMC粒子について、SEM観察により直径および形状を確認し、任意粒子の機械的特性を測定した。各二次粒子の直径をSEM像で測長しながら圧縮試験を繰り返し、二次粒子径と最大荷重の関係を取得した結果を図4に示す。N数を増やすため、圧縮速度を速く変更し100 nm/secに設定した。今回実験に用いたNMC粒子では、粒径が大きくなるほど破壊までの最大荷重が増加することが確認された。
図4 NMC粒子の二次粒子径と最大荷重特性
CP加工による内部空隙観察とEBSDによる一次粒子粒度分布測定
NMC粒子の機械的特性は、一次粒子の粒度分布や空隙率の影響も受けるため、粒子断面からの評価も行った。NMC粒子をCPにより断面加工し、内部空隙の観察とEBSDによる一次粒子の粒度分布測定を実施した。CP加工したNMC粒子の反射電子像を図5に示す。鮮明な結晶コントラストにより一次粒子の分布が確認でき、一次粒子の粒界に空隙が存在することがわかった。反射電子像を二値化処理することにより空隙率を求めたところ、本粒子の空隙率は2.26%であった。同粒子についてEBSD測定を行った結果を図6および図7に示す。EBSDマップを鮮明に取得することができ、一次粒子の分布がよく捉えることができている。図7は一次粒子の粒度分布をEBSDの結果から算出した結果であり、平均一次粒子径は0.66 µmであった。

まとめ
荷重印加時の粒子の力学応答をその場で評価できるin-situナノインデンテーションをSEMと組み合わせることで、粒子レベルの機械特性を直接測定することができた。加えて、クロスセクションポリッシャ™とEBSDを含めて一次粒子の評価も行うことで、NMC粒子をより多面的に解析し評価できることが確認された。 SEMをプラットフォームとし、in-situナノインデンテーションやEBSD測定をすることで、NMC粒子に限らず他の正極材料や負極材料の機械的特性の評価に応用されることが期待される。
