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液系リチウムイオン電池

現在普及しているリチウムイオン電池は"液系リチウムイオン電池 (LIB) "と呼ばれ、正極と負極の間でリチウムイオンが電解液中を往来して充電・放電が行われる電池です。 正極と負極の間には短絡を防止する高分子材料のセパレーターがあり、イオンの伝導には有機溶媒の電解液が使用されています。

リチウムイオン電池 (LIB) の構造・形状

LIBの基本構造は右図のような各要素から構成されています。 正極はリチウムを含む複合酸化物が活物質として用いられ、導電助剤としてカーボン材料、それらを繋ぐ高分子性の結着材とを混錬して作製されています。 負極にはリチウムをインターカレーションできるグラファイト状のカーボンが主に用いられ、正極と同様に結着材と混錬して作製されています。 セパレーターは細孔を有する多孔質高分子が主に用いられます。発熱により細孔が閉じる機能も有し、正極負極の間に設けられ接触による短絡を防止しています。 電解液はリチウムを含む電解質を有機溶媒で溶解して作製されています。

正極と負極はそれぞれの材料を集電体箔上に塗布して正極シートと負極シートが作られます。 電池の形状は、円筒型、角形、ラミネート型が主な形です。円筒型と角形では正極シートと負極シートの間にセパレーターを挟んで重ねて巻回し、セルに収まっています(巻回工法)。 ラミネート型は、巻回工法の他、積層工法でも作製され、正極シート、セパレーター、負極シートが順番に重ねられて作製されています。

円筒型電池

円筒型電池

角型電池

角型電池

ラミネート型電池

ラミネート型電池

各材料は反応性の高いリチウムを使用しているため、ドライルームなど非曝露下での製造も必要としています。 また、各材料の分析も非曝露下で前処理・観察・分析が必要になるため、非曝露が対応できる装置とそれらを連携するシステムがリチウムイオン電池の分析評価には有効となります。

PDF: 6.52 MB

リチウムイオンバッテリーノート

リチウムイオンバッテリの用途は携帯やパソコンの電源から車・定置用へと用途が広がり、より高い性能(出力、安定性・・・)と安全性が求められています。 このリチウムイオンバッテリーの性能と品質向上には各種の評価装置が必要となります。本LIB noteはリチウムイオンバッテリーの材料評価にかかわる装置群について、特長と装置ごとの応用機能をご紹介しています。

正極材
リチウムイオン二次電池の正極材活物質

アルミ箔(左)と塗布後の正極(右)

アルミ箔(左)と塗布後の正極(右)

一般的なリチウムイオン電池の正極は、集電体、正極活物質、導電助剤、結着材で構成されています。 集電体はアルミ箔が用いられ、集電体上に正極活物質と導電助剤、結着材を溶剤で混錬したスラリーが塗布されています。図の左は正極材塗布前のアルミ箔集電体、 図の右が正極材塗布後のアルミ箔集電体で、アルミ箔中央の黒色部が塗布された正極材です。

左図 : 正極材粉末  右図 : 正極材 NMC811 SEM像

正極材粉末(左)
正極材 NMC811 SEM像(右)

正極活物質はリチウムを含む遷移金属酸化物などが使用されます。正極活物質材料には、コバルト酸リチウムやコバルトの一部をニッケル、マンガンに置き換えた三元系正極材のNMC ( (Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2, Ni,Mn,Coの各遷移元素の頭文字からの通称) やニッケル、コバルトとアルミからなるNCAなどあり、自動車などの電動車向け電池に使用されています。 その他、リン酸鉄系を正極活物質に使用したLFP (LiFePO4) も正極活物質として多く使用されています。リン酸鉄系は電池内部の発熱時にも結晶構造が崩壊しにくく熱暴走が起こりにくいため、安全性が高い電池として自動車用途にも使われています。 また、鉄の原材料が他の遷移金属にくらべ安価なため製造コストにもメリットがあります。各正極材には特徴があり、用途に合わせて使用されています。

正極材の結晶構造
NMC/NCA 層状岩塩構造(左)
LFP オリビン構造(右)
refer to : J.Appl.Cryst.(2011).44,1272-1276

各正極活物質はそれぞれリチウム量を電荷に換算した理論容量がありますが、最大容量まで引き出せていないため、更に高い容量を発揮できる正極材料の開発も進められています。
研究開発では各種遷移金属の置換体およびLi量を変化させた材料なども進められています。研究開発の評価では、Liの挿入・脱離反応に伴う結晶構造の安定性や表面コーティング膜厚・化合物など、 電池特性と併せて様々な分析が必要とされています。

正極材 平均電圧 [V] 理論容量 [mAh/g] 実効容量 [mAh/g] サイクル特性 特徴
LiCoO2 3.7 274 148 500~1,000 原材料が高価・熱安定性が比較的低い
NMC 3.6 280 160 1,000~2,000 電位変化がなだらか
NCA 3.6 279 199 500~1,000 エネルギー密度が高い・低温にも比較的耐性あり
LiFePO4 3.2 170 165 1,000~2,000 原材料が安価・電位変化が平坦・安全性が比較的高い

正極用集電体箔

正極集電体は正極活物質を保持し,電流を流すために正極活物質と電子の伝達をする役割としてアルミニウム箔が最適な材料として使用されています。 アルミニウム箔はリチウムイオンがドープせず、耐食性も高く、導電性がある材料です。また、表面は自然酸化皮膜に覆われ、充電時にはさらに耐食性が高いフッ化アルミニウムが表面に形成されるため大電流も可能にします。

正極材分析例
正極活物質の構造評価

正極粒子の断面SEM像

正極活物質は 球状の二次粒子になっています。一次粒子サイズは数 十 nm~数 百 nm と活物質により異なり、正極活物質はこれらが球状に焼結されています。 リチウムを含んだ正極活物質は充電によってリチウムを放出し、 放電時にリチウムが負極から元の結晶格子位置に戻ります。しかしながら、過充電や様々な要因により、リチウムイオンが元の結晶の格子間位置へ戻らずに異なる構造となることがあります。 この構造の変化の評価は、電池性能の劣化のメカニズムや劣化度合いを調べるためにも重要な解析です。構造解析は、XRDなどによる平均構造の把握やRamanシフトによる評価に加えて、 透過電子顕微鏡 (TEM) により局所的な構造変化の分析も行われます。下記の例はSEMに搭載したRamanによる評価とTEMによる極微小領域からの電子回折や原子分解能像から、結晶構造の変化を把握した事例と固体NMRによって充放電時のリチウムの挙動を解析した事例です。

下図はSEM-EDS-Raman結合システムにより充電率による正極活物質の構造変化をSEM内のRaman分光で分析した事例です。 EDSでは捉えられない正極活物質の構造変化をRamanスペクトルは未充電、50%充電、満充電、過充電で捉えています。 Ramanスペクトルは充電によってLiが脱離する際に結晶構造内の酸素-酸素間の縦横振動の変化をレーザー光に対してずれた波長としてRaman Shiftで表しています。

サンプル提供:
豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系
教授 松田 厚範 先生

下図は、TEMを用いた正極材粒子の表面近傍の電子回折パターンです。極表面と内部からは異なる電子回折パターンが得られ、構造が異なることが分かります。 局所の電子回折を得る場合は、極微小領域電子回折法 (NBD) が用いられます。NBD法により分析位置"1"の粒子内部では層状岩塩構造の【11-20】方位から取得されたことが分かります。一方で、分析位置"2"の極表面では分析位置"1"とは異なる構造の電子回折パターンとなっています。

粒子最表層部と内部からNBDパターンを取得

下図は、プリセッション電子回折法 (PED) を用いて、正極活物質内の粒子について結晶方位と結晶構造を解析した結果です。 PEDは、入射電子線を傾斜して歳差運動させながら試料に照射し、動力学的効果を軽減させた電子回折パターンを取得する方法です。 電子線をスキャンしながら各箇所で得た電子回折から、(a) 方位マップや (b) 相分離マップを作成できます。

(a) 方位マップ

正極活物質粒子の結晶方位Map
粒子の結晶方位に基づいて色分けしています。

 (b) 相分離マップ

正極活物質粒子のPhase Map
粒子表面と内部の構造の差を色分け
赤: 層状岩塩構造、緑: 立方晶岩塩構造

下図は、原子分解能HAADF-STEM観察法を用いて、充放電の前後で正極活物質粒子の表面を観察した事例です。 活物質粒子の極表面部分の3原子層は充放電前から変化が生じていますが、赤枠内に位置するリチウムや酸素の占有サイトにはほとんど原子の輝点が見えていません。 STEM-HADAF法では軽元素は見え難いためリチウムサイトに何も映らないのが正解です。一方で、充放電後では赤枠内のリチウム占有サイトに原子の輝点が見えています。 この輝点は、リチウムサイトに化合物の遷移金属が入り込む現象 (カチオンミキシング) が起きたことを反映しています。

充放電前

充放電後

NMC構造図
refer to : J.Appl.Cryst.(2011).44,1272-1276

正極活物質の構造解析には7Li 固体NMRも有効方法です。固体NMR法は試料全体における結晶構造内のリチウムを観測できます。 X線回折法とも相性が良く、相補的に解析が行われます。また、微小な観察・分析となるTEMの結果については微小な構造変化の定量をNMRでサポートできます。
正極活物質のリチウムスペクトルでは、特徴として遷移金属(TM)- リチウム間の常磁性相互作用によってスペクトルが数1000ppmにわたって広幅化することが挙げられます。一般的に用いられる3.2mm径や4mm径の固体MAS(magic angle spinning)プローブでは励起範囲や試料回転の遅さから生じるスピニングサイドバンド(SSB)の影響で良好なスペクトルを得られませんが、1mm径以下の超高速MAS(magic angle spinning)プローブを用いると、本来のピークからSSBを遠ざけたスペクトルが取得できます(図1)。さらに近年開発されたMATPASS測定法と組み合わせてSSBの無い7Liスペクトルを得られます(図2)。
下図2はリチウム過剰系層状正極活物質Li1.2Ni0.2Mn0.6O2の充放電時に取得した7Li MATPASSスペクトルの事例です。未充電時の状態#1では大きく4つのピークが観測されています。スペクトル中の0~1000ppmのNMRシフト値は結晶構造中のリチウム層に存在するリチウムで、 1000~2000ppmは遷移金属層中のリチウム(LiTM)に帰属されます。 さらに結晶構造中のリチウム近傍に存在する遷移金属が"Mnのみの状態"と"MnがNiに置換されている状態"では異なる位置にピークが現れます。 リチウムに関する信号は、#2~#5の充電に伴いリチウムが構造から抜けて減少し、放電後の#7ではリチウムが構造中に戻って信号が回復しています。 固体NMR法では、充放電に伴うスペクトルの変化から充電時に構造から抜けるリチウムや放電時に戻る構造箇所が観測でき、構造劣化に伴うリチウムの挙動を解析することができます。

7Li 固体NMRスペクトルのMAS周波数依存性

図1 : 7Li 固体NMRスペクトルのMAS周波数依存性

充放電時における正極活物質構造中のリチウムを反映した 7 Li MATPASSスペクトル

図2 : 充放電時における正極活物質構造中のリチウムを反映した 7Li MATPASSスペクトル
refer to : Scientific Reports (2020) 10 : 10048

負極材
リチウムイオン二次電池の負極材活物質

一般的なリチウムイオン電池の負極は、集電体、負極活物質、導電助剤、結着材で構成されています。 集電体には銅箔が用いられ、集電体上に正極同様に負極活物質と導電助剤、結着材を溶剤で混錬したスラリーが塗布されています。

各種材料を溶剤で混錬したスラリー

各種材料を溶剤で混錬したスラリー

スラリーを銅箔に塗布した負極集電体

スラリーを銅箔に塗布した負極集電体

グラファイト負極の断面SEM像

グラファイト負極の断面SEM像

リチウムイオンが挿入されたグラファイトの模式図

リチウムイオンが挿入されたグラファイトの模式図

負極活物質には一般的にグラファイトカーボンが使用されます。グラファイト負極は層状構造の間に正極から移動するリチウムが入り込み充電されます (インターカレーション)。 充電時のグラファイト負極の理論容量は372 mAh/g と リチウム金属の3860 mAh/gの容量にくらべ高くはないですが、安全性が高く広く利用されています。
一方で、負極活物質の研究開発ではシリコン負極 (4,200 mAh/g) も進められており、理論容量の大きさと資源の豊富さなどから炭素系負極に代わる材料として注目されています。充放電にともなう体積変化によりサイクル特性に課題がありますが、 全固体電池への応用が期待されています。

負極用集電体箔

負極の集電体には銅箔が使用されます。正極集電体と同様に負極用に用いられる銅箔も耐電解液性、耐酸化性の特長があり、腐食されにくい材料です。 アルミニウム箔の方が軽量でコストも低いですが、負極の活物質にグラファイトを使用した際の作動電位範囲が 0.1 ~ 1.5V vs Li+/Li付近のため、 負極にアルミニウム箔を使用すると約 0.6 V vs Li+/LiでLi-Al合金が形成されてしまい電池容量の劣化につながってしまいます。 そのため、耐電解液性、耐酸化性があり比較的コストの低い銅箔が使用されています。

電解液
液系リチウムイオン電池の電解液

電解液が分解して発生したガスにより膨らんだ液系リチウムイオン電池

電解液は、リチウムイオン電池中でリチウムイオンを運ぶ役割を担います。イオン性物質を水などの極性溶媒に溶解させたイオン伝導性を有する溶液です。
一般的なリチウムイオン電池の電解液は、高電位でも酸化分解せずに作動するようにエチレンカーボネート (EC)、ジメチルカーボネー ト (DMC)、ジエチルカーボネート (DEC) 等の有機溶媒の混合液が用いられています。
一方で、有機溶媒は繰り返される充放電サイクルや過放電、過充電により分解が起こり、電解液の機能が低下します。
また、有機溶媒の電解液は、水溶液系に比べ耐電圧は高いものの引火性があり消防法上の危険物 (引火性液体) にも該当します。特に過放電や過充電、その他の外部衝撃によって内部で短絡が起こると瞬間的に大電流が流れて発熱と発火に至り、引火性の電解液が助長してしまいます。
過充電状態では正極材の劣化が進んで放出される酸素が電解液を酸化分解してガス発生を起こします。また、過放電状態では、電池の負極に用いられている銅箔が溶けて 銅溶出や電解液の還元分解反応が進行し大量のガスを発生します。

電解液は電池の寿命と安全性の観点からも重要な材料で、研究開発では燃えない電解液や高電圧作動する電解液の研究が進められています。 特に負極や正極に対する安定性と耐電圧性、充放電サイクルによる分解挙動などの評価は重要になっており、電解液の劣化挙動は発生するガス分析により評価がされています。

電解液分析例
AI構造解析を利用した電解液の劣化解析 (MS: 質量分析計)

本事例は充放電した液系LIBの電解液について分解劣化を解析しています。分解した電池からアセトンを利用して電解液を抽出し高性能ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計で測定した結果を以下に示します。 測定はハードイオン化法のEI 法とソフトイオン化法のCI法で行い、測定結果からは主成分として抽出溶媒 (アセトン) および電解液・電解質由来の成分が検出されています。一方で、微量成分としては電解液・電解質の分解生成物が検出されています。 一例として、TICC上の保持時間 11.5 minの分解生成物について化合物を推定しました。化合物の推定には、データベースを利用したライブラリ検索が必要です。ライブラリー検索に使用する既存のデータベースの登録数は約30万化合物程度ですが、 未知物質構造解析ソフトウェアのmsFineAnalysis AIのAI構造解析では、約1億化合物が登録されたデータベースからライブラリ検索できます。 更にCI法により得られた分子量と組成式の情報で、検索結果を絞り混むことで、より精度の高い化合物の推定が可能になります。 AI構造解析を用いた本結果では、800 以上あるマススペクトルの類似候補から、C2 H6 FO3P [fluoro(methoxy)phospohoryl] oxymethaneを推定しました。

リチウムイオン電池 (LIB) の分析項目と適応する当社の装置

分析・評価の目的に応じた適用装置の目安を示します。詳細な用途に関しては、各装置のカタログ、技術資料等をご参照いただくか、弊社窓口へお問い合わせください。

リチウムイオン電池 (LIB) の分析項目と適応する当社の装置

電池分析における非曝露搬送の重要性

電池に用いられる各材料は反応性の高いリチウムを使用していることから、大気に曝露すると変質の懸念があります。 製造時もドライルームなどの非曝露環境を必要としており、各材料の分析も非曝露下で前処理・観察・分析を必要としています。 非曝露が対応できる装置と異なる分析装置間でも連携して分析できるシステムがリチウムイオン電池には有効です。

日本電子の装置は、大気非曝露の環境で加工から観察・分析ができるシステムを構築しています。

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