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HS-SPME-GC-QMSと統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQを用いたカカオ分が異なるチョコレートの差異分析 [GC-QMS Application]

MSTips No. 438

はじめに

食品の香気成分は、おいしさに関わる重要な要素として知られており、腐敗臭などのオフフレーバー成分も食品の品質に関わる重要な要素の一つである。これら食品の香気成分の分析には、香気成分の揮発性の高さや多数の成分が複合していることから、ガスクロマトグラフ質量分析計 (GC-MS) が多用されている。
GC-MSによる定性分析では、電子イオン化 (Electron Ionization, EI) 法の測定データを用いたライブラリーデータベース (DB) 検索により化合物同定を行うことが一般的である。ただし、ライブラリースペクトルとの類似度のみを指標に定性解析を行うと、化合物によっては複数の有意な候補が得られる場合や、誤った候補が同定結果として選択される場合がある。このような場合、光イオン化 (Photoionization, PI) 法をはじめとするソフトイオン化 (SI) 法による分子イオンの確認が有効となる。
弊社では、GC-QMSで測定したEI法, SI法の解析結果を自動で組み合わせる統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQを2021年にリリースした。msFineAnalysis iQは、EI法で取得したマススペクトルを用いたライブラリーDB検索と、SI法で取得したマススペクトル中の分子イオンの解析を組み合わせる"統合解析"により確度の高い定性解析結果を得ることができるソフトウェアである。なお、本ソフトウェアの詳細は、MSTips No. 347, 348で紹介している。本MSTipsでは、msFineAnalysis iQを用いたカカオ分が異なるチョコレートの差異分析結果について報告する。

実験

試料にはチョコレート2種類 (カカオ分約70%と約95%) を用い、試料量は5gとした。測定にはGC-QMS (JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta, 日本電子製) を用いた。試料の前処理装置としてオートサンプラーHT2850TのSPMEモード (HTA社製) を使用し、バイアル中のヘッドスペース部分の揮発性成分を測定対象とした。MSのイオン源にはEI/PI共用イオン源を使用し、イオン化法はEI法および、ソフトイオン化法としてPI法を用いた。それぞれの試料でEI法はn=3, PI法はn=1の測定を行った。測定で得られたデータはGC-QMS専用統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQ  (日本電子製) を用いて解析した。その他の詳細条件はTable 1に示す。

JMS-Q1600GC UltraQuadTM SQ-ZetaとHT2850T

Table 1 Measurement condition

SPME
SPME Fiber DVB/CAR/PDMS 2 mm (Merck)
Sample amount 5 g
Extraction temp. 60 °C
Extraction time 30 min
Desorption time 3 min
GC
Column ZB-WAX (Phenomenex)
30 m×0.25 mm I.D., df=0.25 µm
Inlet 300 °C, EI=Split 20:1, PI=Splitless
Oven 40 °C (2 min) → 10 °C/min → 250 °C/min (1min)
Carrier flow He, 1.0 mL/min (Constant Flow)
MS
Ion Source EI/PI combination ion source
Ionization mode EI+ (70 eV, 50 μA), PI+ (D2 lamp, 8~10 eV)
Mass range m/z 33-500 (Scan mode)

結果と考察

TICCと差異分析結果

Figure 1にEI法で取得した際のトータルイオンカレントクロマトグラム (TICC)、Figure 2に差異分析結果のボルケーノプロットを示す (青色:カカオ分約70%, 赤色:カカオ分約95%)。ボルケーノプロットにより、各試料における共通成分・差異成分を可視化することができた。カカオ分約70%に特徴的な成分は11, カカオ分約70%に特徴的な成分は19, 共通成分は21成分抽出することができた。各試料の共通成分として、Acetic acidやVanillinといったチョコレートの香気成分として知られる化合物が検出された (Figure 1のTICCに化合物名と構造式を記載)。各試料に特徴的な成分の解析結果は次項以降に記載する。

Figure 1

Figure 1 Total ion current chromatograms of EI

Figure 2

Figure 2 Volcano plot of variance component analysis result

各試料に特徴的な成分の統合解析結果

Table 2にカカオ分約70%、Table 3にカカオ分約95%に特徴的だった成分の統合解析結果を記載した (相対強度順)。統合解析結果は、背景色により定性結果の質を確認することができ、それぞれ以下の意味を示す。

青色:定性確度が高い解析結果 (表示している化合物名の可能性大)
黄色:確認が必要な解析結果 (表示している化合物ではなく、構造が近い他の化合物の可能性がある)

今回はほとんどの定性結果の背景色が青色となり、確度の高い定性結果が得られていることが分かった。それぞれの試料において、アルデヒド、エステル、カルボン酸や窒素を含むピラジン類など、チョコレートの香気成分由来と考えられる成分が検出された。
各試料において最も相対強度が高い成分 (カカオ分約70%: ID 040, カカオ分約95%: ID 032) のマススペクトルをFigure 3に示す。カカオ分約70%で最も強度が高いID 040は、Propylene Glycolと推定された。Propylene Glycolは香料・着色剤の溶剤や乳化剤として使用される成分である。カカオ分が低い本試料では、香料の溶剤として使用されていることが示唆される。カカオ分約95%で最も強度が高いID 032は、Pyrazine, tetramethyl-と推定された。Pyrazine, tetramethyl-はカカオの焙煎により生じる香りであり、カカオ分の高い本試料で強く検出されていることが示唆される。なお、本成分は両試料間で共通成分のAcetic acidと近い時間で溶出していたが、msFineAnalysis iQのデコンボリューションピーク検出機能によりピーク検出することができていた (Figure 4)。
msFineAnalysis iQにより、各試料に特徴的な成分を容易に抽出、定性することが可能であった。

Table 2 Characteristic compounds in Cacao 70%

Table 2

Table 3 Characteristic compounds in Cacao 95%

Table 3

Figure 3

Figure 3 Mass spectra of ID 040 and ID 032

Figure 4

Figure 4 Deconvolution chromatogram of ID 032

まとめ

本報告では、msFineAnalysis iQの差異分析機能を用いたカカオ分の異なるチョコレートの差異分析例について紹介した。本機能により、サンプル間の差異成分と共通成分を容易に抽出することができ、各成分の定性も容易に行うことが可能であった。msFineAnalysis iQを用いることで、GC-QMSを用いた定性解析の定性確度向上や効率的な解析作業が期待される。

 

分野別ソリューション

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