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JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alphaを用いた電界脱離イオン化 (FD) 法によるポリフェニレンスルフィド (PPS) オリゴマーの末端基構造解析 [GC-TOFMS Application]

MSTips No. 446

はじめに

電界脱離イオン化 (Field Desorption ionization: FD) 法は、試料を塗布したエミッターと高電圧を印加した電極の間で生じる高電界におけるトンネル効果を利用したイオン化法である。イオン化の際に試料に与える内部エネルギーが少なくフラグメンテーションが起こりにくいことから、分子量情報のみを与えるソフトなイオン化法として知られる。また、測定の際は試料を塗布したエミッターを専用のプローブに取り付け、質量分析計のイオン源に直接導入するためGCを介す必要がなく、高分子材料の測定にも利用されている。
FD法は飛行時間質量分析計 (TOFMS) と組み合わせることで、測定した化合物の分子式まで算出することができる。ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-AlphaにおけるFD法の概要やサンプリング手法についてはMSTips No. 355MSTips No. 403に記載があるので参照されたい。本報告では、耐熱性・耐薬品性に優れたエンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンスルフィド (PPS) の測定例を報告する。PPSは製法の違いが末端基に現れることが知られており、末端基の構造解析が重要となる。しかしPPSは、汎用溶媒に不溶であることから、LC-MSで測定することは困難である。そこで、今回は溶媒に分散した状態でも分析可能なFD法を用いてPPSオリゴマーの末端基推定を行った。

実験

試料には研究用PPS (Scientific Polymer Products製) を使用した (Figure 1)。PPSは、10 mg/mLとなるようTHFで調製した。この時、PPSはTHFに溶解しておらず、分散している状態であった。調製した試料は2 µLエミッターに塗布し、測定に供した。測定には、ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計 JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alphaを使用した。イオン源はEI/FI/FD共用イオン源を使用し、イオン化法はFD法を用いた。その他の詳細な測定条件をTable 1に示す。ケンドリックマスディフェクト (KMD) 解析にはmsRepeatFinder (日本電子製)を用いた。

 

Figure 1 Structural Formula of Polyphenylene Sulfide

Table 1  Measurement  Conditions

結果

Figure 2に今回取得したデータのTICCを示す。PPS由来のピークが1つ確認された。TICC上で青矢印で示した箇所において作成したマススペクトルをFigure 3に示す。マススペクトルからは108 u間隔のピークが検出され、精密質量解析からPPSのモノマーであるC6H4Sが検出できていることが確認された。

 

Figure 2 Total Ion Current Chromatogram

Figure 3 Mass Spectrum of PPS

 

Figure 4は、Figure 3のマススペクトルをmsRepeatFinderを用いてBase unit 108.00519 (C6H4S) で展開したKMDプロットとマススペクトルである。KMDプロットにより、PPSの末端基が異なると推定される3つのシリーズ(シリーズA, B, C)が確認できた 。各シリーズについて精密質量解析と同位体パターンから末端基の構造推定を行った結果をTable 2に示す。最も強く観測されているシリーズAは、環状構造を有していることが示唆された。また、シリーズBは塩素を含む構造をしていることが示唆された。塩素を含む場合、M+2などの同位体パターンが特徴的になるため、同位体パターンのシミュレーション結果と実測スペクトルを比較した。末端基に塩素を含むシリーズBの4量体由来と推定されるm/z 577.97969の組成推定結果および分子イオンの同位体パターンシミュレーション結果をFigure 5に示す。質量誤差は-2.26mDaと算出され良好な精度で精密質量が得られていた。さらに、同位体のパターンもシミュレーション結果とおおむね同様であり 、良好な測定結果が得られていることが確認できた。
PPSは工業的には、主にPhillips法という手法で製造される1)。 Phillips法は、ジクロロベンゼンと硫化ナトリウムを N -メチル-2-ピロリドン中で反応させる手法であり、この手法で合成されたPPSは末端にクロロフェニル基を持つ成分を含むことが報告されている1)。今回の結果においてもシリーズBとして該当成分が含まれているため、本試料はPhillips法により製造されたものと推定された。

 

Figure 4 Mass Spectrum and KMD Plot

Table 2  Estimated Structures Result of End Groups

 

Figure 5 Elemental Composition Estimated result and Isotope Pattern Simulation Result (Tetramer)

結論

本MSTipsでは、JMS-T2000GCのFD法を用いてPPSオリゴマーの末端基を推定した結果について報告した。FD法を用いることで、汎用溶媒に不溶であるPPSでも分析できることが分かった。また、msRepeatFinderのKMDプロットにより、末端基が異なるシリーズを容易に可視化でき、最終的に製法まで推定することができた。FD法が高分子材料の分析に活用されることが期待される。

参考文献

1) 中村清香他 分析化学 Vol 70, No1・2 p 45-51 (2021)

分野別ソリューション

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JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alpha 高性能ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計

msRepeatFinder ポリマー解析用ソフトウェア

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