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転写プレートPoropare™を用いたPETフィルム表面の分析

MSTips No. 474

マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法を用いたマスイメージング(MSI)技術は、近年様々な分野で利用が拡大している。ソフトなイオン化法であるMALDI法を用いることで種々の分子の局在を可視化することが可能である。MALDI-MSIの一般的なワークフローでは、5~10µm厚の試料切片を作成し、導電性を付与したスライドガラスの上に配置する。その上にマトリックスを均一に塗布し、MALDI-MSI測定を行う。MALDI-MSIの課題として、植物や樹脂試料の表面測定など切片作成の困難な試料がある。そのような試料に対しては、試料表面の有機化合物を特殊な加工を施したプレートに転写して測定することが解決策の1つと考えられる。そこで高い堅牢性をもつ新規転写プレートPoropare™(浜松ホトニクス社製)を用いて、樹脂表面の化合物の転写を試み、MALDI-MSI測定を実施した。本報告ではこの転写プレートと高質量分解能MALDI-TOFMSを組み合わせたMSI測定について、紫外線照射したPETフィルム表面に存在するオリゴマーの変化を確認した結果を紹介する。

実験

市販PETフィルムを2枚用意し、片方を紫外線照射1時間することで劣化させた。UV照射有無のPETフィルムを5mm角程度に切りサンプルとした。転写プレートにHFIPを滴下し、PETフィルム片、キムワイプの順にのせ、その上から押し付けを行った(溶媒抽出による転写)。測定には、JMS-S3000 SpiralTOF™-plus 3.0を用い、SpiralTOF正イオンモードでMSI測定を行った。得られたデータはmsMicroImager™にて解析した。その他、詳細な測定条件はTable1に示す。

 

結果

Figure 2に、MSIの全測定範囲積算マススペクトルを示す。紫外線照射有無のPETフィルム表面から、PETのオリゴマー成分[繰り返し間隔:192u]を観測した。転写プレートは有効面にPtのイオン化支援層を有しており、SALDI(Surface-assisted Laser Desorption Ionization: 表面支援レーザー脱離イオン化)効果によりマトリックスを使用しなくてもPETオリゴマー成分を観測することができた。

 

 

Figure 3にUV照射なし(上段)、UV照射1時間(下段)のPETフィルム領域のROIスペクトルを示す。どちらのROIスペクトルにも、PETの繰り返し構造を示す192u間隔のシグナルが確認できる。次に、Figure 4に拡大した領域のスペクトルを示す。UV照射なしは、PETの環状体シリーズがメインで確認された。UV照射1時間では、環状オリゴマーよりも光酸化反応由来の両末端基がカルボン酸のシリーズ(黄色)が強く確認された。緑、ピンク、黄色の印をつけたシグナルは、光酸化反応由来の両末端基がカルボン酸のシリーズで、それぞれの末端基を下に示す。

 

 

それぞれのマスイメージ画像を描きだし比較する(Figure 4)。左側に示したのが環状オリゴマーのマスイメージで、UV照射の有無にかかわらず、環状オリゴマーのイオン量は大きく変化しないことが分かった。次に、両末端がカルボン酸(黄色)のシリーズのマスイメージを比較すると、光酸化劣化により生じた両末端基がカルボン酸のシリーズのイオン量が、紫外線照射後に増加していることが分かった。このように、転写プレートを用いることで、UV照射したPETフィルム表面の光酸化劣化の現象を簡単に確認できた。

 

まとめ

切片作成が難しいサンプルのMSI測定について、転写プレートPoropare™を用いた検討を行った。転写基板は転写機能を付与するために構造上凹凸が大きいものの、飛行距離の長いSpiralTOF™-plus3.0と組み合わせることで低分子領域においても高分解能、高質量精度でマスイメージングが可能であることが分かった。新規転写プレートPoropare™を用いて、UV照射前後のPETフィルム表面を転写し、UV照射前後の状態をマスイメージングにより確認した。フィルム表面を直接転写することで、UV照射が1時間と短い時間でも光酸化反応の変化をとらえることができた。
転写プレートを用いることで、難しい切片作成をすることなく樹脂表面のマスイメージング測定を容易に行うことができ、高分子材料のマスイメージング測定の一つの手段として、転写プレートPoropare™は有用といえる。

※ Poropare™は浜松ホトニクス(株)の商標です。

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