熱分解GC/MS/MSによるポリマーの熱分解生成物の異性体識別
MSTips No.494
はじめに
Fig. 1 JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQ
GC/MSは、複雑な試料に含まれる成分を高感度で分析できる特徴を持つ。特に、EI法を用いると、多くの構造情報を含むフラグメントイオンを生成できるため、ポリマーの熱分解生成物の解析に有効である。一方、GC/MS/MSは、夾雑成分と共溶出した微量成分の検出や異性体の識別などにおいて高い性能を発揮する。特に、異性体の識別では、構造解析に有用なフラグメントイオンを選択してMS/MS測定を行うことで、選択したイオンが構造のどの部位に由来するか帰属可能となる。例えば、ABS樹脂の熱分解GC/MSでは、Acrylate(A)とStyrene(S)の重合体であるASS、SSA、SASの構造異性体が観測される。これらは、NISTライブラリー未登録の成分であり、シングルスキャン測定で得られるマススペクトルが複雑なため、マススペクトルから構造情報を読み解くことは困難である。しかし、MS/MS測定を用いることで、これらの構造異性体の構造解析を進めることが可能である。本アプリケーションノートでは、ABS樹脂を熱分解した際に観測されるASS、SSA、SASについて、ガスクロマトグラフ三連四重極質量分析計JMS-TQ4000GC(Fig. 1)を用いたプロダクトイオンスキャン測定による構造異性体の識別を報告する。
測定条件
測定は熱分解装置 (EGA/PY-3030D、フロンティア・ラボ製) と、ガスクロマトグラフ三連四重極質量分析計JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQを使用した。Table 1に測定条件を示す。
Table 1 Measurement condition

結果
熱分解GC/MS測定結果
TICCをFig. 2、マススペクトルをFig. 3に示す。既報の通り、ABS樹脂からASS、SSA、SASと推測されるピークが観測された。それぞれのTICCピークで観測されたフラグメントイオンの中から、構造解析に有用と考えられるフラグメントイオンをプリカーサーイオンとして選択した。ASSではm/z 195を、SSAではm/z 117、144を、SASではm/z 105、156を、それぞれプリカーサーイオンに選択しMS/MS測定を実施した。

Fig. 2 TICC of ABS by Py/GC/MS

Fig. 3 Mass spectra of ASS, SSA and SAS by Py/GC/MS
熱分解GC/MS/MS測定結果
ASS、SSA、SASにおける選択したプリカーサーイオンからのプロダクトイオンスペクトルをFig. 4に示す。ASSでは、ベンゼンの脱離(m/z 117)やトロピリウムイオン(m/z 91)などが観測されており、m/z 195が推定された開裂位置であることが確認された。同様にして、SSAでは、トロピリウムイオン(m/z 91)やCNHが脱離したイオン(m/z 117)などが観測された。SASでは、CNHが脱離したイオン(m/z 129)やフェニル基に由来するイオン(m/z 77)などが観測された。これらのことから、プリカーサーイオンに選択したフラグメントイオンが推定された開裂位置であることが確認された。

Fig. 4 Product ion spectra of ASS, SSA and SAS by Py/GC/MS/MS and proposed assignments
まとめ
ポリマーの熱分解GC/MS/MSによる構造異性体の識別について報告した。構造解析に有用なフラグメントイオンを選択して測定することで、選択したイオンが構造のどの部位に由来するか確認することができた。これにより、構造異性体の識別が容易に行えた。このように、JMS-TQ4000GCがポリマーの構造解析に有効であることが示された。
