msFineAnalysis iQ Ver.2のターゲット分析例③
マイクロチャンバー及び加熱脱着GC-MS法による大豆ミート食品中大豆臭成分の探索
MSTips No. 505
1. 概要
植物性代替肉の課題の一つは、動物性食肉の風味の再現であり、香りはその風味に大きく影響する。特に、大豆ミート食品においては大豆臭の低減が課題であり、試料の香気成分中に含まれる微量な大豆臭成分の把握は重要となる。食品香気成分の分析法として加熱脱着(TD)-GC-MS法がある。試料の香気成分を高感度かつ網羅的に分析出来る一方で、検出される多数の成分の中から特定の成分を探索するのには時間を要する。
ターゲット分析は、GC/EI測定データ及びソフトイオン化(SI)測定データを用いる統合解析1)をベースとした、特定化合物のみを迅速且つ高精度に探索及び判定する手法である。本手法では、事前に探索したい化合物のCAS#、分子式(もしくは分子量)、フラグメント組成式などをターゲットリストに登録する。登録した情報をもとに、GC/EI測定データ及びGC/SI測定データに対して抽出イオンクロマトグラム(EIC)を描画し、ピークを検出する。検出したピークについて、マススペクトル中の分子イオンピーク及びその同位体パターン、NIST データベース検索によるスペクトル類似度やリテンションインデックス(RI)を確認し、これらの総合的な結果をもって目的の化合物であるか否かを判定する。
今回は、 TD-GC-MS法を用いて大豆ミート食品の香気成分を測定し、ターゲット分析により大豆臭成分のみを迅速に分析した。

統合解析ソフトウェアmsFineAnalysis iQ Ver.2
ターゲット分析ワークフロー

2. 実験
試料には、市販の大豆ミート食品(ハンバーグ)を10 g用い、マイクロチャンバー(µ-CTE250, MARKES社製)を用いて香気成分を捕集した。測定には、前処理装置として加熱脱着装置(TD100-Xr, MARKES社製)を装着したGC-MS(JMS-Q1600GC, JEOL製)を使用した。イオン化法はEI法およびソフトイオン化(SI)法として光イオン化(PI)法を用いた。得られたデータの解析は、統合解析1)ソフトウェア(msFineAnalysis iQ, JEOL製)を用いた。Table 1に測定条件を示す

µ-CTE250

TD100-Xr-
JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
Table 1 Measurement Condition

3. 測定結果
3.1 ノンターゲット分析
Figure 1にTD-GC-MS測定のTICクロマトグラムを示す。主なピークとして、玉葱の香気成分として知られるDimethyl disulfideやハンバーグの調味料の一つであるナツメグの香気成分として知られる4-Terpineolなどが検出され、TD-GC-MS法による、大豆ミート食品の香気成分分析が可能であることが示された。 (MSTips No. 504)

Figure 1 EI/TIC chromatogram
3.2 ターゲットリストの編集
Table 2に、大豆臭に寄与する成分として知られている化合物を6種類登録したターゲットリストを示す。ターゲット分析では、分子式、フラグメント組成式、m/z値のいずれかの情報により化合物を探索できる。今回登録した化合物のマススペクトルでは特徴的なフラグメントイオンとして脱水イオン(-H2O)が検出される。そのため今回は、化合物の探索にフラグメント組成式情報を用いた(尚、Pentanalは-COを登録)。このように、ターゲット分析では分子イオンが検出されない場合でも探索することが可能である。

Table 2 Target List

3.3 大豆臭成分のターゲット分析結果
Figure 2にターゲット分析結果を示す。図の左下ターゲット情報より、Pentanol、Hexanol、Pentanal、Hexanal、Heptanalの含有が確認された(背景色:青)。選択中の[T005] Hexanalの探索のためにターゲットリストに登録したm/z値は82であり、EI測定およびSI測定におけるEIC(m/z 82)から化合物の候補ピークが検出された。そのうち、RT 3.49 minのピーク(▼) のターゲット判定(ターゲット化合物であるか否か)の結果をFigure 3に示す。

Figure 2 Result of Target Analysis
ターゲット判定の結果、スペクトル類似度(Max 999)は892であり、実測RI値とデータベースRI値の差(ΔRI:30以内で良好)についても-6 [iu]と良好で判定をクリアした。同位体パターン解析では、実測値と理論値の一致度のスコア(同位体マッチングスコア:Max1.00)は0.70で判定をクリアした。
尚、分子イオンピーク確認では判定NGとなったが、Hexanalは分子イオンピーク強度が低いことがわかっているので、今回はターゲット判定を手動でOKに変更した。(□)以上より、HexanalがRT 3.49 minに検出されていることを確認できた。

Figure 3 Result of Target Judgment
まとめ
TD-GC-MS法を用いて大豆ミート食品の香気成分を測定し、ターゲット分析により大豆臭成分を探索した結果、HexanalやHeptanalなどの大豆臭成分の含有を迅速に確認できた。以上より、ターゲット分析による特定の化合物の迅速且つ高精度な分析が可能であることが示された。
参考文献
1) M. Ubukata et al, Rapid Commun Mass Spectrom., 34 (2020). DOI: 10.1002/rcm.8820
