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質量分析による屋内用ラインテープの斜光劣化評価アプリケーション③ ー熱脱着-GC/MS法による床表面からの移行成分の差異解析ー

MSTips No. 532

1. はじめに

これまでに、ダイレクトEGA‑MS法およびDEP‑MS法を用いて、屋内用ラインテープを構成する各層(基材層、粘着層および着色層)の組成解析について報告してきた。特に着色層に関する検討では、貼付前後の比較分析により、着色剤として含有されていた有機顔料であるピグメントイエロー14の消失が確認された。この結果は、貼付後に観察される斜光化に伴う白化現象が、当該有機顔料の分解または消失に起因する可能性を示唆するものである。
一方、斜光劣化現象の解明を進める過程において、床表面材からの成分移行が関与していると考えられる現象が確認された。そこで、屋内用ラインテープの斜光劣化特性をより包括的に評価することを目的として、熱脱着‑GC/MS法を用いたアウトガス成分の定性解析を実施した。その結果、床表面材からの成分移行に起因すると推定される化合物の検出が認められた。評価結果の妥当性を確保するため、斜光劣化評価に先行して当該移行成分の評価を行ったので、その内容について以下に報告する。

2. 実験

試料には、図1に示すように、床表面に8か月間使用し、白化した屋内用ラインテープとその床表面材を用いた。各試料について、約0. 3mgをエコカップに採取し、秤量した。
測定は、熱分解装置であるマルチショットパイロライザー(EGA/PY‑3030D、フロンティア・ラボ株式会社製)を、GC‑QMS(JMS‑Q1600GC UltraQuad™ SQ‑Zeta、日本電子株式会社製)に接続したシステムを用いた。
試料は加熱炉内において、ダブルショット法の1stショットとして、50 ℃から320 ℃まで昇温速度20 ℃/minで加熱した。加熱により発生したアウトガス成分は、GCオーブン内に設置されたキャピラリーカラムUltraALLOY‑5(長さ30 m、内径0.25 mm、膜厚0.25 µm)に、スプリット比20:1の条件で導入した。熱脱着‑GC/MS測定における詳細な測定条件を表1に示す。
定性解析には、統合定性解析ソフトウェア「 msFineAnalysis iQ 」を使用した。
本解析では、同ソフトウェアに搭載された差異解析機能を用いて両試料の測定データを比較し、各試料から検出されたアウトガス成分のうち、共通して検出された成分に着目した。

 

図1. 屋内用ラインテープの写真

表1. 測定条件

3. 結果と考察

図2には、両試料のTICCの重ね合わせ表示を示した。また、図3には、差異解析に基づいて得られたボルケーノプロットを示し、さらに表2には、共通成分(A=B)として定性された成分のピークリストを示した。
クロマトグラムおよび各プロットは、床表面材を青色、8か月間貼付使用後の屋内用ラインテープを赤色として表示した。

 

図2. 差分解析により得られた両サンプルのTICCの重ね合わせ

 

図2に示すTICCより、両試料に共通して検出された主成分ピークは、いずれも ID018 であることが確認された。また、図3に示したボルケーノプロットにおいても、ID018は他成分と比較して突出して大きなプロットとして示されており、これに加え、ID016、ID017、ID019などを含む計6成分が共通成分としてプロットされた。
表2に示す共通成分として統合解析されたピークリストを確認したところ、ID018は Bis(2-ethylhexyl) phthalate(DEHP) と同定された。ライブラリ検索におけるマッチファクターは 913 と高く、良好な類似度が得られた。一方で、リテンションインデックスによるΔRIは 61 iu とやや大きなずれが認められたが、これはDEHPが高濃度で存在したことによりクロマトグラムピークの幅が広がったことに起因すると考えられるため、定性解析結果への悪影響はないと判断される。
DEHPは代表的なフタル酸エステル系可塑剤として広く使用されており、当該床表面材においても、柔軟性を付与する目的で高濃度に配合されていたものと推察される。さらに、ID018の前後に溶出した ID017およびID019 の統合定性結果においても、DEHPと類似したフタル酸エステル系化合物が同定された。
これらの結果から、床表面材に使用されていたDEHPをはじめとする可塑剤成分が、約8か月間の貼付期間中に屋内用ラインテープへ移行した可能性が高いことが示唆された。

図3. 差分解析により得られたボルケーノプロット

 

表2. 共通成分(A = B)として定性同定された成分のピークリスト

 

さらに、ID016の詳細解析結果を図4に示した。ID016は Tri(butoxyethyl) phosphate(TBEP) と同定された。TBEPは、DEHPなどの可塑剤とは異なり、一般に塗布時の造膜性、レベリング性、ならびに消泡性の改善を目的として使用される機能性添加剤として知られている。このことから、本成分は床表面材の製造または塗布工程において、可塑剤とは別途配合された添加剤であると推測される。
また、ID013として同定されたTributyl acetylcitrate(ATBC) は、DEHPと同様に可塑剤として機能する化合物である。ATBCについても、DEHPと同様に床表面材中に含有されていた成分が、長期間の貼付中に屋内用ラインテープへ移行したものと推察される。

 

図4. ID016の詳細解析結果

4. 結論

本検討では、床面に約8か月貼付した屋内用ラインテープを対象に、熱脱着–GC/MSによるアウトガス成分の定性解析を行い、msFineAnalysis iQ の差異解析機能を用いて床材との比較評価を実施した。その結果、代表的な可塑剤である DEHP をはじめ、類似のフタル酸エステル類、ならびに TBEP や ATBC といった機能性添加剤が、床表面材から屋内用ラインテープへ移行していることが明確に確認された。
これらの知見より、msFineAnalysis iQの差異解析機能は、試料間における成分差異の把握および移行成分の特定に極めて有効な解析手法であることが示された。

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