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質量分析による屋内用ラインテープの斜光劣化評価アプリケーション④ー熱脱着-GC/MS法による光劣化前後のアウトガス成分の差異解析ー

MSTips No. 533

1. はじめに

これまでに、ダイレクトEGA‑MS法およびDEI‑MS法を用いて、屋内用ラインテープを構成する各層(基材層、粘着層および着色層)の組成解析を報告してきた。着色層に関する検討では、貼付前後の比較分析により、着色剤として含有されていた有機顔料であるピグメントイエロー14の消失が確認された。この結果は、貼付後に観察される斜光劣化に伴う白化現象が、当該有機顔料の分解または消失に起因する可能性を示唆するものであった。
そこで本報では、斜光劣化に伴う材料劣化がアウトガス成分の種類および放出量にも影響を及ぼすと推測し、熱脱着‑GC/MS法を用いて、斜光劣化前後におけるアウトガス成分の差異解析を試みた。

2. 実験

試料には、図1に示す使用前および8か月使用後の屋内用ラインテープ(オレンジ)を用いた。使用前の試料については剥離紙を除去し、両試料共に約0.35mgをエコカップに採取し、秤量した。
測定には、熱分解装置であるマルチショットパイロライザー(EGA/PY‑3030D、フロンティア・ラボ株式会社製)を、GC‑QMS(JMS‑Q1600GC UltraQuad™ SQ‑Zeta、日本電子株式会社製)に接続した分析システムを用いた。
試料は加熱炉内において、ダブルショット法の1stショットとして、50 ℃から320 ℃まで昇温速度20 ℃/minで加熱した。加熱により発生したアウトガス成分は、GCオーブン内に設置されたキャピラリーカラムUltra ALLOY‑5(長さ30 m、内径0.25 mm、膜厚0.25 µm)に、スプリット比20:1の条件で導入した。また、質量分析においては、従来の電子イオン化(EI)法に加え、ソフトイオン化法の一種である光イオン化(PI)法を併せて用いた。
熱脱着‑GC/MS測定における詳細な測定条件を表1に示す。

 

使用前

使用開始から8ヶ月後

図1. 屋内用ラインテープの使用前後の写真

 

表1. 測定条件

 

図2. EIおよびPIを用いて得られた両サンプルのTICCの重ね合わせ(青線:使用前、赤線:使用後)

3. 結果と考察

また、EI法及びPI法による両試料のTICCを図2に示した。
図3には差異解析によって得られたボルケーノプロットを、表2には8か月使用後試料と比較して使用前試料から多く検出された成分についての統合定性解析結果を示した。
図3のボルケーノプロットより、使用前試料のみから検出された、あるいは使用後試料より多く検出されたピークは、合計9成分であった。このうち、使用前試料に最も多く含まれたピークはID003であり、表2および図4に示したEI法及びPI法によるマススペクトルとNISTライブラリーによる検索結果から、o-トルイジンと同定された。
o-トルイジンは、染料原料やシアノアクリレート系接着剤の硬化促進剤として利用されている化合物である。
前報において、本屋内用ラインテープの顔料がアゾ系有機顔料であるピグメントイエロー14(PY14)であることを報告した。
従って、検出されたo-トルイジンは、PY14に起因した化合物が検出されたものと推測された。
そこで、同一条件で、o-トルイジンとPY14の各標準物質、及び混合物の測定を実施した。図5にo-トルイジンをトレースしたm/z 106の抽出イオンクロマトグラム(EIC)を示した。

図3. 差分解析により得られたボルケーノプロット

 

表2. サンプルAに多く含まれると定性同定された成分のピークリスト(A>B)

 

図4. ID003のEIおよびPIマススペクトルとNISTライブラリ検索結果

図5より、o-トルイジン単体ではRT 4.42分に検出されるのに対し、PY14単体ではRT 5.15分と、約0.33分遅れて溶出した。また、混合試料においては、それぞれの保持時間に対応するピークが確認された。
これらの結果から、PY14測定時に検出されたo-トルイジンは、PY14中に元来含有されていたものではなく、熱抽出時における熱分解反応によって生成した分解生成物である可能性が示唆された。
また、表2より、本屋内用ラインテープから検出されたo-トルイジンの保持時間(RT)は5.3分であった。この保持時間は、PY14測定時に確認された熱分解生成物のRTと一致することから、検出されたo-トルイジンは、顔料であるPY14の熱分解に起因する生成物であることが示唆される。

図5. o-トルイジンの検出結果の比較

 

さらに図6には、斜光度の異なる3段階(弱・中・強)の試料について、o-トルイジンのベースピーク(m/z 106)をトレースしたEICの比較結果を示した。
その結果、本屋内用ラインテープ中のo-トルイジンは、斜光度の増加に伴い段階的に減少する傾向が確認された。このことから、8か月間にわたる斜光曝露により、顔料であるPY14が光分解反応を受けて減少、最終的には消失に至った過程を反映していると考えられた。

 

図6. 照射角度の異なるサンプル間におけるo-トルイジンの比較

4. 結論

本研究では、斜光劣化前後の屋内用ラインテープを対象に、熱脱着‑GC/MS法を用いたアウトガス成分の差異解析を行った。
その結果、使用前試料において多く検出される成分としてo-トルイジンが同定された。さらに、標準試料を用いた検証により、当該o-トルイジンは、顔料であるピグメントイエロー14に起因する成分であり、主として測定時の熱分解により生成した化合物であると考えられた。
一方、ラインテープは、長期にわたる斜光曝露により、顔料の構造緩和や表面性状の変化が生じ、その結果として白化現象が確認された。また、白化の進行に伴いo-トルイジンの検出量は、減少する傾向を示した。これらの結果から、熱脱着‑GC/MS法によるアウトガス分析において、o-トルイジンを指標とすることで、顔料PY14の残存量を評価できる可能性が示された。
以上の結果より、msFineAnalysis iQの差異解析機能は、試料間における成分差異の把握および移行成分の特定に有効な解析手法であることが確認された。

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