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MS/MS (タンデム質量分析) とは | GC-MS・LC-MS・MALDI-TOFMSにおける役割の違いを解説

MS/MS (タンデム質量分析) は、複雑な試料中から目的化合物を高い選択性で捉え、分子構造に迫るための強力な分析手法です。本コラムでは、MS/MSの基本原理から、MALDI-TOF/TOFを含む測定モード、具体的なアプリケーション事例までを体系的に解説します。

MS/MS (タンデム質量分析) とは?

MS/MS(タンデム質量分析)は、質量分析(MS)を二段階で実施することにより、単一の質量分析では得られない詳細な構造情報や高い選択性を実現する手法です。

単一の質量分析では、試料中の分子をイオン化し、その質量電荷比 (m/z ) を測定することで、試料に含まれる化合物の分子量情報を得ることができます。しかし、複雑な混合物の分析や、同じ分子量を持つ異なる化合物の識別、微量成分の高感度検出においては、単一の質量分析だけでは限界がありました。

MS/MSは、この課題を質量分析を二回繰り返すことで解決しました。具体的には、一度目の質量分析で特定のイオンを選択し、それを意図的に断片化 (フラグメンテーション) させた後、二度目の質量分析でその断片イオンを測定します。この二段階プロセスにより、分子構造に関する詳細な情報が得られるとともに、目的化合物だけを選択的に検出する高い特異性が実現されます。

MS/MSの原理

代表的な空間的MS/MSの模式図

MS/MSの基本原理は「選択→断片化→測定」という3段階のプロセスに集約されます。

まず、試料分子から生成されたイオンの中から、分析対象となる特定のイオン (プリカーサーイオン) を選択します。次に、そのイオンにエネルギーを与えて意図的に断片化させます。この過程をフラグメンテーションと呼びます。最後に、生成した断片イオン (プロダクトイオン) を測定し、その質量情報から分子構造に関する詳細な情報を得ます。このように、特定のイオンを一度選択してから断片化し、その生成物を再度解析することで、単一の質量分析では得られない高い選択性と構造情報が得られます。

MS/MSを使用する目的

MS/MSを使用する目的 (使用しなければならない状況) は主に下記の3つです。

1. 構造解析

使用しているイオン化法が「ソフトイオン化法」の場合、測定対象の分子は分子イオン M+・、プロトン付加分子 [M+H]+ などの形でイオン化されるため、そのマススペクトルからは構造情報を得ることができません。構造情報を得るためには、これらのイオンを断片化し、そのマススペクトル (プロダクトイオンマススペクトル) を測定する必要があります。

LC-MS (液体クロマトグラフ質量分析装置) で使用されているエレクトロスプレーイオン化 (ESI) 法、大気圧化学イオン化 (APCI) 法はソフトイオン化法です。またMALDI-TOFMSのイオン化法であるマトリックス支援レーザー脱離イオン化 (MALDI) 法もソフトイオン化法です。これらのイオン化法を使用していて、構造解析を行うにはMS/MSが基本的に必須となります。

一方GC-MS (ガスクロマトグラフ質量分析装置) の場合、最も一般的に利用されているイオン化法は電子イオン化(EI)法です。EI法は「ハードイオン化法」であり、EIマススペクトルには非常に多くの構造情報が含まれているため、構造解析のためにMS/MSは必須ではありません。

2. 定量分析

GC-MS、LC-MSで定量分析を行う場合で、非常に複雑な混合物試料中に定量の対象となる化合物が極微量含まれているような状況では、GCあるいはLCによる分離と、定量対象化合物特有のイオンのm/z 値に基づく選択的な検出を行っても、選択性が不足して信頼できる定量値を得られない場合があります。具体的には食品中の残留農薬の定量、環境試料中のダイオキシン類の定量などが該当します。

このような場合にはMS/MS (タンデム質量分析計) を用いて、第1MSで特定のプリカーサーイオンを選択し、更に第2MSで、このプリカーサーイオンから開裂生成されたプロダクトイオンの内、特定のm/z 値を持ったもののみを選択して検出するという「選択反応モニタリング (Selected Reaction Monitoring; SRM) 法」により信頼度の高い定量分析結果を得ることができます。

3. 同族化合物の一斉検出

三連四重極質量分析計に特有の測定モードである、プリカーサーイオンスキャンあるいはコンスタントニュートラルロススキャンを用いると、複雑な混合物試料に含まれている同族化合物 (共通の部分構造を持つ一群の化合物) を一斉に検出することができます。

MS/MSの分類

MS/MSは、「どのような構成でイオンを選び、壊し、測るか」によって性格が大きく変わります。ここでは 装置構成/質量分析部の組み合わせ の軸で整理します。

装置構成による分類

MS/MS(タンデム質量分析)は、MS1とMS2の分離ステップが「空間」と「時間」のどちらで行われるかによって、2つの基本構成に大別されます。

項目 空間的タンデム質量分析 時間的タンデム質量分析
原理 MS1・衝突セル・MS2を物理的に直列配置 1台の分析計内で時系列に多段分析
MS1/MS2 独立した2つの質量分析部 一つの質量分析部が繰り返し機能
MS/MS (MSn) 段数 2段 (MS2) 固定 2段を超えるMSn(n ≥ 2)が可能
主な用途 構造解析、ノンターゲット解析、
定量分析、ターゲット分析、スクリーニング
高度な構造解析、ノンターゲット解析
代表装置 三連四重極質量分析計 (QqQ)
四重極-飛行時間質量分析計 (Q-TOF)
四重極-電場型フーリエ変換質量分析計
飛行時間-飛行時間質量分析計 (TOF-TOF)
四重極イオントラップ質量分析計 (QIT)
フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計 (FT-ICR)

質量分析部の組み合わせによる分類

MS/MS装置の性格は、質量分析部の組み合わせによって大きく変わります。前段と後段の質量分析部がどのように組み合わされるかにより、感度・分解能・選択性・解析能力が異なります。
以下の表では代表的な組み合わせを整理しました。

1. 空間的タンデム質量分析

(1) 連続イオン源

装置タイプ MS1 MS2 主な用途
QqQ (三連四重極) 透過型四重極 透過型四重極 複雑な混合物試料中の微量成分の定量 (食品中の残留農薬の検査、薬物動態研究、など)
複雑な混合物試料中の同族化合物の一斉検出
Q-TOF 透過型四重極 飛行時間 ノンターゲット解析
未知物質の構造解析
プロテオミクス
メタボロミクス、など
Q-FTICR 透過型四重極 FT-ICR
Q-FTMS 透過型四重極 電場型フーリエ変換

(2) パルスイオン源

装置タイプ MS1 MS2 主な用途
TOF-TOF 飛行時間型 飛行時間型 未知物質の構造解析
プロテオミクス
脂質の構造解析、など

空間的タンデム質量分析計でMS1とMS2の方式が異なるものはハイブリッド質量分析計と呼ばれます。上記の例では、QqQと TOF-TOF以外は全てハイブリッド質量分析計です。

2. 時間的タンデム質量分析
装置 MS段階 (MSn) 主な用途
四重極イオントラップ MS2・MS3・MSn (n ≥ 2)... 多段階 MS/MS (MSn; n ≥ 2) による詳細構造解析
複雑分子解析
天然物・未知物同定
FT-ICRMS MS2・MS3・MSn (n ≥ 2)...

代表的なMS/MS測定モード

MS/MS装置にはさまざまな分類軸がありますが、実際の解析では装置ごとの測定モードの違いが結果や適用範囲に大きく影響します。ここでいう「測定モード」とは、プリカーサーイオンの選択方法やプロダクトイオンの生成方法、検出までのイオンの流れ方を組み合わせた操作方法 のことを指します。つまり、同じ装置でも測定モードを変えることで、得られる情報の種類が大きく変わります。ここでは代表的な装置であるQqQとTOF-TOFの測定モードを詳しく解説します。

三連四重極MS/MS(QqQ)の測定モード

三連四重極型は、Q1 (第一四重極)、q2 (コリジョンセル)、Q3 (第三四重極) という三つの四重極を直列に配置した構成を持ちます。Q1とQ3をそれぞれ独立に制御できるため、多様な測定モードが実現できます。

測定モード Q1 q2 Q3 用途
プロダクトイオン スキャン SIM CID Scan 構造解析
プリカーサーイオン スキャン Scan CID SIM 同族化合物の一斉検出
ニュートラル ロス スキャン Scan CID Scan 同族化合物の一斉検出
選択反応モニタリング (SRM) SIM CID SIM 微量成分の検出
  • SIM(Selected Ion Monitoring:選択イオンモニタリング)

    特定の質量電荷比 (m/z ) を持つイオンだけを選択的に検出する手法です。質量分析計のマスフィルターを特定のm/z 値に固定し、そのイオンだけを連続的にモニターします。

  • Scan (スキャン:走査)

    質量分析計が一定の質量範囲を連続的に走査 (スキャン) し、その範囲内のすべてのイオンを検出する測定手法です。

  • CID (Collision-Induced Dissociation:衝突誘起解離)

    MS/MSにおいて最も一般的に使用されるフラグメンテーション (イオン断片化) 法です。イオンに運動エネルギーを与え、不活性ガス分子と衝突させることで、運動エネルギーを内部エネルギーに変換し、化学結合を切断してイオンを断片化させます。

プロダクトイオン スキャン

試料から生成された多種のイオンの中から、特定の質量電荷比 (m/z ) を持つプリカーサーイオンだけを選択的に通過させます。この段階で、目的とする一種類のイオンだけが分離されます。
Q1を通過したプリカーサーイオンは、q2に入ります。ここには不活性ガスが充填されており、プリカーサーイオンは不活性ガスと衝突します。この衝突により、化学結合が切断され、複数種のプロダクトイオンが生成されます。
Q3は設定した質量範囲全体をスキャンします。
プロダクトイオンスキャンにより特定のイオンの構造情報が取得可能です。

プリカーサーイオン スキャン

Q1は特定のm/z 値に固定せず、設定した質量範囲全体をスキャンします。つまり、この段階では「特定の何か」を選んでいるわけではなく、試料中のあらゆるイオンを順番に透過させている状態です。
Q1から送られてくる様々な質量のイオンが、q2に入ります。ここでは、不活性ガスとの衝突により断片化が起こります。
Q3は特定のプロダクトイオンだけを通過させるように固定されます。したがって、プリカーサーイオンスキャンでは、特定のプロダクトイオンを生成する化合物、すなわち特定のプロダクトイオンを生成し得る共通の部分構造を持った一群の化合物を一斉に検出可能です。

コンスタントニュートラル ロス スキャン

Q1は質量範囲全体をスキャンします。これはプリカーサーイオンスキャンと同じです。次にQ1から送られてくる各プリカーサーイオンが、q2で不活性ガスとの衝突により断片化されます。
コンスタントニュートラルロススキャンの最大の特徴はQ3になります。Q3はQ1と同期してスキャンしますが、常に一定の質量差 (一定のニュートラルロスの質量) を保ちスキャンされます。
具体的例として、18Daのニュートラルロススキャンの場合は以下のようにQ3で検出されます。

時刻 Q1が通過させる質量 Q3が通過させる質量 質量差
t1 m/z 200 m/z 182 18 Da
t2 m/z 300 m/z 282 18 Da
t3 m/z 350 m/z 332 18 Da

つまり、設定したニュートラルロス (この例では18 Da) を失ったイオンだけが検出されます。コンスタントニュートラルロススキャンは特定の中性分子の脱離が生じる化合物、すなわち特定の中性分子の脱離が生じ得る共通の部分構造を持った一群の化合物を一斉に検出可能です。

選択反応モニタリング (SRM)

Q1はマスフィルターとして機能し、特定の質量電荷比 (m/z ) を持つプリカーサーイオンだけを通過させます。この段階で複数種類のイオンの中から目的化合物由来以外のイオンの大部分は排除されます。
Q1を通過したプリカーサーイオンは、q2に入ります。この領域には不活性ガスが充填されており、プリカーサーイオンはこの不活性ガスと高速で衝突します。衝突により化学結合が切断され、複数種のプロダクトイオンが生成されます。
q2で生成された多種のプロダクトイオンがQ3に入ります。Q3は再びマスフィルターとして機能し、Q1と同様の原理で、特定のプロダクトイオンだけを選択的に通過させます。
選択されたプロダクトイオンが検出器に到達し、その強度が記録されます。 SRMは二段階の質量分離により、極めて複雑な混合物中に存在する特定の微量成分のみを選択的に検出することができます。

MALDI-TOF/TOFMSの測定モード

MALDI-TOFMSでのMS/MS測定は、三連四重極とは異なる原理と構成を持ちます。MALDI-TOFでMS/MS測定を行うための最も一般的な装置構成がTOF/TOFです。

MALDIイオン源→第1TOFMS→コリジョンセル→第2TOFMS

MALDIイオン源

紫外光レーザーを試料とマトリックスの混合結晶に照射すると、マトリックスが急速に加熱され気化し、マトリックスから試料分子へプロトンが移動し、イオンが生成されます。イオン化された試料は第1TOFMSへ移動します。

第1TOFMS

イオンは質量の違いにより飛行速度が異なるため、質量が小さいイオンは速く、大きいイオンは遅く進みます。飛行管の途中に設置されたイオンゲートは通常閉じており、目的のプリカーサーイオンが到達する瞬間だけ数十ナノ秒間開きます。この精密なタイミング制御により、目的のイオンだけが通過し、他のすべてのイオンは遮断されます。

JEOLのJMS-S3000 NewSpiralTOF™では第1TOFMSとして、イオン源からイオンゲートまでの距離が15 mの、JEOL 独自の SpiralTOF™イオン光学系を採用しており、極めて高いプリカーサーイオン選択性を実現しています。MALDIイオン源は、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフといった分離手段とのオンライン接続ができないため、複雑な混合物試料に含まれる各成分の構造情報を高い信頼性で得るためには、高いプリカーサーイオン選択性が必須です。

コリジョンセル

第1TOFMSで選択されたプリカーサーイオンはコリジョンセルに入り、コリジョンガスと衝突します。この衝突により化学結合が切断され多様な断片イオンが生成されます。

第2TOFMS

コリジョンセルから出た多種のプロダクトイオンは分離され、軽いプロダクトイオンから順に検出器に到達します。飛行時間から各イオンの質量が計算され、MS/MSスペクトルが構築されます。
JEOLのJMS-S3000 NewSpiralTOF™では第2TOFMSとして独自のイオン再加速機構とオフセットパラボリックリフレクトロンを採用し、低質量のイオン (Li+ @ m/z 7) からプリカーサーイオンまで同時に観測可能です。

MS/MSによる分析事例

食品中のオフフレーバー分析

MS/MS 分析が「なぜ微量成分分析に有効なのか」を、実例ベースで理解できるアプリケーションです。本アプリケーションでは、GC-MS/MS を用いて食品中の2-MIB (オフフレーバー成分) を分析し、プリカーサーイオン選択とプロダクトイオン検出による高い定性・定量性能を実証しています。

ポリマーの末端基構造解析

MS/MSを用いた構造解析の有効性を実例で理解できる分析事例です。こちらのアプリケーションノートでは、直接試料導入プローブ Direct Insertion Probe (DIP) とガスクロマトグラフ三重四重極質量分析計を組み合わせ、ポリフェニレンチオエーテル (PPS) ポリマーの末端基構造を MS/MSで解析しています。プロダクトイオンマススペクトルに基づいた構造情報の取得手法や、異なる末端基の識別プロセスを詳しく解説しています。

レセルピン光分解物の構造解析

MS/MS測定を構造解析に役立てる実例を知りたい方におすすめのアプリケーションノートです。TOF-TOFオプションを備えたMALDI-TOF/TOFで取得したMS/MS (プロダクトイオン) データから、光分解レセルピンの光分解物の組成・構造情報を推定した解析手法と結果がまとめられています。
JEOLのJMS-S3000 NewSpiralTOF™の極めて高いプリカーサーイオン選択性を活かして、レセルピンと、その光分解物の構造情報を独立に得ている事例です。

末端基の異なるポリエチレンオキシドの解析

MALDI-TOF/TOFMSによるポリマー構造解析の実例です。本事例では、末端基の異なるポリエチレンオキシドを対象に、TOF-TOFで取得した プロダクトイオンマススペクトル を比較し、各ポリマーの開裂経路やフラグメントのパターンをポリマー解析用ソフトウェアmsRepeatFinderを用いて可視化しています。異なる末端基構造を持つ化合物の識別プロセスや解析手法を知りたい方におすすめです。

GC-MSにおける構造解析とMS/MS

多くの方が「構造解析=MS/MS (タンデム質量分析) が必要」と考えていますが、これは主にLC-MSの世界観から来る誤解です。GC-MSによる構造解析では、必ずしもMS/MSが必要というわけではありません。もちろん、微量分析や、異性体識別などではGC-MS/MSは広く使われていますが、GC-MSにおける構造解析においてはMS/MS必須ではない理由を以下に説明します。

MS/MSが "必要とされてきた" 理由

MS/MSが強力な分析ツールであることは間違いありません。特に定量分析や夾雑成分の多い試料における選択的検出において、その有用性は広く認められています。しかし、「構造解析」という目的においてMS/MSが重要視されてきた背景を整理すると、その前提は分析手法によって必ずしも同じではないことがわかります。

LC-MSにおける構造解析でMS/MSが必須となる背景

LC-MSで使用されるESI (エレクトロスプレーイオン化) 法やAPCI (大気圧化学イオン化) 法は、分子をほとんど壊さずにイオン化する「ソフトイオン化法」です。分子をそのまま検出できるため分子量情報は得られる反面、構造の手がかりとなるフラグメントイオンの生成が少ない傾向にあります。
このため、単段MSだけでは構造情報が十分に得られない場合があり、意図的にイオンを選択・開裂させるMS/MSが構造解析において重要な役割を果たします。

GC-MSにおける構造解析の前提

一方、GC-MSで一般的に用いられるEI (電子イオン化) 法は、分子を積極的に開裂させるハードイオン化法です。その結果、構造解析に有用な多様なフラグメントイオンが、豊富に生成されます。すなわちLC-MSでMS/MSによって追加的に取得される構造情報は、GC-MSでは最初の測定の段階で既に得られています。EI法で発生するフラグメンテーションは、イオン化に使用する電子の運動エネルギーを標準的な値 (70 eV) に設定しておけば、使用される質量分析計の方式・メーカーに依存せず極めて再現性が高いため、構造既知の標準試料のEIマススペクトルを集積した「ライブラリ」に対する検索を用いた同定法が確立しています。

EIマススペクトルライブラリを用いた同定における2つの課題

NIST (National Institute of Standards and Technology; アメリカ国立標準技術研究所) が収集したEIマススペクトルライブラリ (2023年版) には約35万化合物のEIマススペクトルが収載されています。一方でPubChem (アメリカ国立衛生研究所の国立生物工学情報センターによって管理されている化学物質データベース) には、GC-MSで分析できる可能性がある分子量1,000以下の化合物に限っても1億種以上が登録されており、NISTライブラリに登録されている化合物数はその約0.35%に過ぎません。NISTライブラリに収載されていない化合物を同定するには、EIマススペクトルを「読んで」分子構造を推測する必要があります。このためにはEIイオン化におけるフラグメンテーションに関する豊富な知識と経験が必須です。
またハードイオン化法であるEI法では分子イオン、すなわち分子の全体構造を保っているイオンが検出されない化合物も多く存在します。そのような化合物については、マススペクトルの類似度が高く、分子量・分子式が異なる複数の候補が提示され、類似度のみからでは誤った同定をしてしまうことが頻繁に発生します。

ソフトイオン化法と「統合解析」による信頼度の高い同定

上記の2つの課題の内、後者に関しては、同じサンプルをソフトイオン化法を用いて測定し、検出された各化合物について分子量・分子式を確認することで誤同定を防ぐことができます。LC-MSではハードイオン化法が存在しないために、構造解析にはMS/MSが必須なわけですが、GC-MSではハードイオン化法であるEI法が標準であるために、分子量・分子式の確認のためには何らかのソフトイオン化法が必須となるわけです。
GC-MSで一般的に用いられるソフトイオン化法は化学イオン化 (CI) 法ですが、可燃性あるいは毒性の試薬ガスが必要であること、測定の対象となる化合物と試薬ガスとの「相性」を事前に予測できないことが多く、複数種類の試薬ガスを試行錯誤的に試す必要があるという課題があります。

JEOLのGC-四重極MS (GC-QMS) では、CI法に加えて、JEOL独自の光イオン化(PI)法がオプションとして装着可能です。EI法とソフトイオン化法を素早く切り替えられるようにEI/CI共用イオン源、およびEI/PI共用イオン源が用意されています。EI法データとソフトイオン化法データを統合して自動解析するソフトウェアも用意されています。

JEOLのGC-飛行時間MS (GC-TOFMS) ではCI法、PI法に加え、揮発性化合物に適用可能な最もソフトなイオン化法である電界イオン化 (FI) 法を行えるEI/FI/FD共用イオン源がオプションとして用意されています。GC-TOFMSの精密質量測定能力を活かしてEI法データとソフトイオン化法データを統合して自動解析するソフトウェアも用意されています。

「AIライブラリ」による課題解決

NISTマススペクトルライブラリに収載されていない「未知物質」の構造解析ソリューションとして、JEOLではAIを用いて巨大なEIマススペクトルライブラリを構築する手法を独自に開発しました。2憶化合物の「AIライブラリ」を組み込んだ「自動構造解析ソフトウェア」により、「MS/MSがなければGC-MSによる構造解析は困難」という常識を塗り替えます。

日本電子のMS/MS装置の紹介

JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQ

JMS-S3000 NewSpiralTOF™

装置方式 三連四重極質量分析計 MALDI-TOFMS
イオン化法 EI, PI, CI, Low-energy EI MALDI
MS/MSの組み合わせ QqQ TOF-TOF
プリカーサーイオン選択範囲 4-1070 u 100-4000 u
コリジョンエネルギー Low-energy CID (1-100 eV) High-energy CID (20 keV)
特徴 ヘテロ原⼦などの弱い結合部位からの構造情報が取得されやすい 結合の強弱に関わらず、構造全体の情報が取得されやすい

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日本電子株式会社

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日本電子は、1949年の創業以来、これまで最先端の理科学・計測機器、産業機器そして医用機器の開発に邁進してきました。
今では数多くの製品が世界のいたるところで使用され、真のグローバル企業として高い評価を頂いております。
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